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三人そろっていただきますをしたあと、隣から「ままぁ」という声。顔を向けると拓翔がケチャップをこちらに向けている。
「ぱんらしゃ!」
「パンダさんを書いてほしいの?」
「あい!」
大きくうなずく仕草があまりにかわいくて、自然と顔がほころんでしまう。
拓翔からケチャップを受け取り、オムライスの上にパンダの絵を描いた。
「ぱんらしゃーん!」
大喜びの拓翔に私も大満足。我ながらうまく描けたと自負できる。
この春から保育園のパンダ組になったのがきっかけで、拓翔にパンダブームが到来したらしい。
「たっくんは本当にパンダが好きだなぁ。注文がもう少し落ち着いたら、動物園に連れて行ってやりたいが」
「仕方ないわよ、おじいちゃん。この時期は日曜もお弁当の注文があるんだもの」
基本的に日曜祝日は店を開けていないけれど、仕出し屋時代からのお客さんや町内会など、昔なじみの方からの注文はなるべく受けるようにしていた。従業員は増やさずに利益を出すためにふたりで話し合った結果だ。
お花見のこの時期は、お正月のおせちと並ぶほどの書き入れ時なのだ。
「ぱんらしゃん……」
「また行けるようになったら行こうね」
悲しげにつぶやいた拓翔の頭を撫でてやり「オムライス食べよ」と促す。
握ったスプーンでオムライスと格闘しながらもおいしそうに食べる我が子の様子を見ながら、私は少し申し訳ない気持ちになった。
仕方ないこととはいえ、家庭の事情のために好きなものやりたいことを我慢させないといけないことがあるだろう。だったらせめて愛情だけはしっかり注いであげたい。
大変なことが多いのも事実だけど、あのとき自分ひとりでも産んで育てると決めてよかった。どんなに疲れ切っていようとも、一日の終わりに寝顔を見るだけで明日も頑張ろうと思える。
そしてそれは未婚のまま出産することを決めた私を、黙って受け入れてくれた祖父のおかげだ。
昔気質の祖父はきっと大反対だろうと思っていたけれど、反対どころか相手のことを問い詰めることもなく、黙って見守ってくれた。そんな祖父に甘えて、私は拓翔を育てることができている。
拓翔と祖父。ふたりは私にとってかけがえのない大事な家族なのだ。
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