プロローグ

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 数えきれないほど高みに昇りつめ意識を手離しかけた頃、彼の腕の中で二十四回目の誕生日を迎えた。 『誕生日おめでとう、さやか。生まれて来てくれてありがとう』 『あ、りがとう、ございます』  お礼を口にしたものの、あまりにかすれた声に自分で驚く。長いこと声を上げ続けたせいだ。  恥ずかしさのあまりうつむいたら、背中に回る腕に優しく髪を撫でられた。 『きみを必ず幸せにする』  真剣な声に胸が熱くなる。今にも泣き出しそうになるのを必死にこらえ、笑顔を向けた。 『私も、あなたを幸せにします』  彼は驚いた顔をした後、ほころぶような笑みを浮かべる。そして額同士をこつんと合わせた。 『一緒に幸せになろう』  ぽろりと涙がこぼれ、返事が彼の口腔へのみ込まれていく。  シーツの波間で、この夜何度目かの甘い口づけに身を任せた。  優しくて温かい家にしよう。忙しい彼が帰って来たときにほっとするような。  いつか新しい家族が増えて、年を取って、病めるときも苦しいときも、どんなときもそばにいて支え合いたい。  世界一幸せな家族になるのだ、彼と一緒に。  言葉にできないくらいの多幸感に包まれながら、そう信じて疑わなかった。  それなのに――。  すべてをぶち壊したのは、ほかでもない私だった。
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