ケンカしよ

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「俺さあ、お前に何かした? そりゃさ、時々ちょっかいは出したよ。目の前通ってるときに足ひっかけたり、デコピンしたりしたよ。でもそんなことでさ、俺のことだます?」 そこよ。そこなのよ。なぜ前を通ったときだけなの? 気が向いたときにだけあたしをかまうの? いつもいつもかまってほしいのに。 あたしは、笑いだしそうになるのを一生懸命堪えて、蚊の鳴くような声で、上目遣いで言ってやった。 「だって、ちゃんと確かめない方が悪いわ。神様がお空からみんなに聞こえるようにおっしゃったのに、その時に寝てるのが悪いのよ。あたし、ちゃんと聞いて、ちゃんと考えて、神様のところに一番に行けるようにしたんだもの。神様は褒めてくださったわ。お前みたいなちびっこが先着十二名に入れるなんて思わなかったって。牛も、偉いえらいって言ってくれたわ。あんたはだらしないからダメなのよ」 彼の目が、怒り狂って倍くらいの大きさになった。 いい。 素敵。アイラインなんかひかなくたってキリっと目じりが上がってて、シュッとした小顔で、お鬚なんかはやしちゃって、めちゃくちゃかっこいい。 猫。あんたはサイコー。 「お前、絶対許さんからな」 そう言うと飛びかかってきた。でもあたしは彼の足の間をするっと逃げる。こう見えてすばしっこいのよ。簡単には捕まらないんだから。悔しかったら追いかけておいで。 あたしは逃げる。彼は追いかける。 これが始まり。後の世の人間があたしたちのために「トムとジェリー」ってアニメーションを作ってくれた。あれは本当にいい。いつだってあたしたちは仲良くケンカするの。 そりゃ時々食べられることもあるけど、そんなの問題じゃない。 ネズミ算っていうくらいだもの、いくらでも増えてあげる。だから遠慮しないで。 世界が終わるまで、ずっとずっと追いかけてきて。
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