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部屋に戻った私はミーシャに用意してもらった洋服に着替える。父と兄が仕事に出かけたのを見計らって、母にバレないように、私はミーシャと共に家を出た。
街は市民で賑わい、沢山の笑い声が響く。男女が楽しそうに笑い合っているのを見ると、羨ましいとさえ思う。
(私も……、公爵家じゃなくて街で育っていたら、好きな人と笑い合えていたのかな)
考えるだけで心が虚しくなっていく。私がボーっとしていると、ミーシャが「どうしたんですか、お嬢様」と心配そうにしている。
「ごめんなさい、ちょっとボーっとしてただけ。今日も、あの店に行きましょう」
私には街に出るようになってから、通っている店がある。ミーシャにはいつも帰りましょうと止められるけど、私はその店が好き。というよりも、その店にいる人たちが好き。
店に入ると、いつもの顔ぶれがそろっていた。そして、私を見るなり「よう、嬢ちゃんまた来たのか」と一人の男が声をかけてくる。
「こんな朝から、お酒飲んでいるんですか」
「別にいいだろう。酒飲まなきゃ、仕事ができねーんだよ」
一人の男がそう言うと、周りにいた男達も「そうだ、そうだ」と言って、お酒を飲み干す。
私が今いるのは所謂、酒場というところ。一見すると、ただの家に見えるけど、中には沢山のお客さんで賑わっている。そんなところをなぜ私が知っていたかというと……。
「ダリア様、またここにいらしたのですか?バレたら叱られるどころじゃありませんよ」
そう言って、私に困った顔を向けるのは王宮に勤めている騎士のセリヤス・フォード。セリヤスから聞いて、私はこの場所を知った。この場所は、ここにいる人達は、私を温かく迎え入れてくれる。私が唯一、家以外で心を休める場所。
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