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「嬢ちゃんはなんでこんなところが好きなんだ?」
一番私に話しかけてくれる農家のおじさんに聞かれる。
「えっと……、私の二つ目の家みたいな感じだからかしら」
何故と聞かれると上手く答えられないけど、嘘は言っていない。この場所にいれば、民の思いや希望が一番に聞ける。それに、初めて来た時から貴族だってバレているけど、それでも温かく受け入れてくれる。ここにいる皆は私にとっては家族のような存在。
「そんなこと言われちゃ、嬉しくて酒も進むな~」と豪快に笑う農家のおじさん。
私も釣られて笑っていると、セリが「ダリア様。今日は王太子様と会う日では?」と言う。私は一気に気分が下がる。殿下の事は好きなのに、会いたくないという気持ちの方が勝ってしまう。
「そ、そうね…時間まではここにいさせてくれないかしら」
セリにお願いすると「いいですよ。私も王宮に行かなければならないので、出る時はお供しますね」と微笑んだ。
たわいない話をしていると、そろそろ殿下に会う時間になってしまう。私が酒場の皆に「では、私はそろそろお暇させていただきますね」と言って席を立つ。
「おう、またな!」
「いつでも、来ていいんだからな。俺達は嬢ちゃんの味方だぞ」
別に私の事情を話しているわけでもないのに……。
私は涙を堪えて「ありがとうございます」と微笑んだ。
セリと一緒に酒場を出ると、店の前でミーシャが待っていた。
「お嬢様、遅いですよ。早くしないと時間に間に合いません。セリヤス様もいらっしゃたのなら何か言ってくださいよ」
焦った様子のミーシャに少し笑ってしまう。
「何、笑っているんですか」
「ごめんなさい。でも、そんなに慌てなくでも大丈夫よ。……だって、殿下は」
言いかけたところで、セリが「ダリア様。メイドを困らせてはいけませんよ」と私を見て笑う。
「分かったわ。じゃあ、早く行きましょう」
私はセリとミーシャに急かされながら、殿下の元へ向かう。
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