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——はっきり言ってタイプじゃなかった。
初めて彼にときめいたのは、去年の夏。全校行事として行われたバレー大会の時だ。
授業中の地味な横顔からは想像できない俊敏な動き。器用なレシーブや鋭いスパイクに、思わず目を奪われていた。
クラスメートになったことはないけれども、二年生の時から選択授業では顔を合わせている。受験期には一緒に勉強する機会も作って、それなりに距離を縮めてきたつもりだ。
推薦入試で受験を終えたあたしは、暇すぎて仕方ない二月前半を存分に投入して、今日のプレゼントに全力を注いできた。
——あとは、厄介なあれに邪魔さえされなければ。
気持ちを落ち着かせようと、目を閉じて深呼吸を始めたその時。
「佐原じゃないか。こんなところで何しているんだ」
呼ばれて、はっと顔を上げる。
目の前に、数学の清水晴彦先生が立っていた。
フレームの細いメガネ、覇気のない瞳、ほっそりとした長い手足。バレンタインの楽しさとか一ミリも知らなそうな見た目の、三十代前半の陰キャ風教師だ。
「先生、どうしてこんなところに」
「職員室に戻るところだが、それより、その手に持っているものはなんだ?」
「いやえっと、これは……」
こういう事態を想定できていないわけではなかったけれど、いざ教師に見つかると動揺して視線が泳ぐ。
——乙女の最大の敵、それはこの高校の無駄に厳しい校則。
「学校に余計なものを持ってきてはいけないことはわかっているよな? よこしなさい」
「あっ!」
抵抗する間も無く、手元の紙袋をひったくられた。
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