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「あの、ルール違反してしまったのはすみません。ですが……」
理不尽な校則に心の中で舌打ちしながら、しおらしく見えるように頭を下げた。
「お願いです! 今日だけ見逃してくれませんか? どうしても想いを伝えたい人がいるんです。だからどうか、今回だけは!」
男の先生に媚び……ちょっとお願い事を聞いてもらうのは苦手じゃない。
日本史のおじさんとか国語のおじいちゃんならこれで見逃してもらえたかもだけど、今回はさすがに相手が悪く。
「学校は勉強するための場所だ」
規則にベタ惚れの堅物先生は、鉄のような表情でかぶりを振った。
「受験が終わったからって、恋愛にうつつを抜かしているのは感心できないな」
「そんな……」
「今回は没収するだけにしてやる。今度から、授業に不要なものは学校に持ってこないように」
「……わかりました」
何を言っても聞き入れてくれそうにない先生の様子を見て、あたしは唇を噛み締めた。
先生は紙袋を左手にぶら下げ、職員室のある本校舎の方へと歩いていく。
お堅い規則に容赦なく連行された、あたしの大事な恋心。
だけど、これで終わりじゃない。
「あの、先生」
やられっぱなしで引き下がるつもりなんて、これっぽっちもなかった。
「なんだ?」
清水先生が振り返り、鬱陶しそうにあたしを見る。
「一つ、いいことを教えてあげます」
首を傾げた先生に視線をまっすぐ合わせて、とっておきの決め台詞を口にした。
「女の子の恋は、校則なんかに負けないってこと」
「はあ?」
ぽかんと口を開けた先生を見て、思わず笑みがこぼれる。
やっぱり、あたしの方が一枚上手だ。
「それじゃ、これで失礼しますっ!」
ぺこりとかわいく頭を下げて、あたしは先生に背を向けた。
空っぽの両手を振りながら、ルンルン気分で廊下をスキップする。
清水先生は、学校の風紀を守れた満足感に浸りながら職員室に戻るのだろう。
何もかもあたしの計画通りだとは思いも寄らずに——。
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