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「清水先生、なんですかそれ?」
没収した紙袋を持って職員室に入ると、後輩の女性教員・江口がクッキーを頬張りながら訊ねてきた。
「生徒が校内に持ち込んだチョコレートだ。まったく、手が焼けるよ」
「真面目だなあ。バレンタインくらい青春させてあげたらいいじゃないですか」
「君はいつになったら女子高生気分から抜けるんだか」
教員という立場にあるまじき江口の言動にため息をつきつつ、没収した紙袋をデスクに置く。
「どれどれ、どんな贈り物だったのかなっと」
「こら、あんまり覗くものでは……」
「わあ! 包装かわいい!」
リボン付きの菓子箱を取り出した江口が、再び紙袋の中を見て「ん?」と目を細めた。
「これって……なるほど、そっかそっか」
袋の底を覗く江口の顔に、よからぬ類の笑みが浮かぶ。
「どうしたんだ?」
「いえいえ」
クッキーまみれの右手で口を覆った江口が、いたずらっぽい声音で続けた。
「清水先生、ダメですよお。校則違反に加担しちゃ」
「どういう意味だ?」
「考えてみたら清水先生、去年のバレー大会で大活躍でしたもんね! 納得ですう」
「だから、何の話を……」
全校行事のバレー大会、たしかに教員チームの一員として出場したが、どうして今その話が。
「とにかく、中見てみてくださいよお」
一瞬のためらいの後、差し出された紙袋の底を覗き込んで。
「な! 騙された!」
思わず、叫び声をあげていた。
花の模様で縁取られたメッセージカードの中央、見覚えのある丸っこい文字で表されていたのは。
背伸びした関係に憧れる女子高生の、危うくて抜け目のない恋文だった。
【清水先生! 受け取ってくれてありがとうございますっ!】
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