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背を向けたままの悠太の耳元に、俺は祈るように願いを伝えた。
「もし、今悠太に誰もいないなら、地球にいる残りの時間を俺と過ごしてほしい」
分かってはいたけれど、悠太はやっぱり嘘つきだった。
「俺は船には乗らないよ。チケットは人に譲ったんだ」
俺のための、悠太自身のための、きっと最後の嘘をついた。
「俺と、一緒にいてくれるの?」
悠太が振り向き、力強く抱きしめられた。男っぽいがっしりとした体躯、あの頃より厚みの増した胸や腕が心地良い。俺もそれ以上の熱を込めて悠太の答えを抱きしめ返した。
「なぁ悠太、神様って信じる?」
胸の中で、悠太が小さく頷いた。
「今なら、信じられる気がする」
終末の世界では、どうしたってその存在を感じてしまう。偶然に見える出来事が、やはり必然なんだと思わせられる。高校時代の仲間からきたLINE、俺が打った返信、電車通りで悠太と出会ったこと、悠太の言い訳を信じて付いて来た小島の海、そのタイミングの全て。
「、、、流れ星だ」
暮れ始めた空に尾の長い流星が走った。ひとつ消えまたひとつ現れる。
悠太も顔を離して空を見あげた。
「願い事、もう叶えてもらったしな」
「こっちに落ちてきませんようにって願わないと」
悠太が言った途端西の空がオレンジ色に光って爆音が鳴り響いた。
サイレンがけたたましく鳴り始め、避難指示のアナウンスが流れ出す。『住民は地下道に避難するなど速やかに命を守る行動をとってください』『速やかに命を守る行動をー』。
空には次々と星が流れ、海に落ちたり遠くの島に落ちる爆弾の着弾するような音が轟いた。
「思ってたより早いな」
蒼く染まりゆく空に光の筋がいくつも差して、辺りを明るく照らしては消えていく。
「なんか、綺麗だね。昔観た戦争映画みたい」
悠太の言っていることはなんとなく分かる。
「綺麗で、怖いな」
俺の肩口に頬を寄せ、腰に回した腕が俺を強く抱き寄せた。
「奏眞、こんなおっさんに告白してくれてありがとう」
「悠太、こんなおっさんの告白を受け入れてくれてありがとな」
2人で顔を見合わせて、納得したように笑った。笑った目尻に現れる数本の皺も愛おしく、そっと親指でなぞった。
遠くの空で流星が雨のように降りそそいでいる。
遅れて届く爆音に鼓膜が振動する。
風の音も波の音もカモメの鳴き声も聴こえない。
怖くて美しい神様の采配に世界を委ねた。
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