61)生まれ生きゆく喜び

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61)生まれ生きゆく喜び

碧の怪我が完治し、体力も回復したところで、藤棚の再生が始まった。 植え込み仕事は碧が中心だが、潤もできる範囲で片付けや植え込みを行う。 蒼は手袋をはめ、一緒に散らばった枝を片付ける。 碧は木を植え直し、潤と蒼が土をかける。 藤棚の柱は幸い無事だったので再利用する。 柱の土台にするために、煉瓦のような石を見つけ、土に埋め込む。 作業は着々と進むも、碧と蒼は時折小さな喧嘩を起こし中断する。その度に潤が穏やかに嗜める、という事の繰り返しだ。 蒼の集中力が途切れ遊んでいると、大抵碧が注意する。飽きっぽい蒼と過集中の碧は対照的だ。 「おい、蒼。藤で遊ぶなよー」 「えー、碧さんも何か枝で遊んでるでしょー?」 たまに碧は枝でギターを弾く真似をしているのだが。 「二人とも、喧嘩してたらなかなか進まないぞ。碧も大人気ないなぁ」 潤は呆れつつも二人の「兄弟」を見ているような気持ちにもなり、何だか微笑ましくなる。 「だって蒼が生意気なんだもん」 「なんだとー!」 「ほーら、また言い争ってたら作業が止まるよ。蒼、怪我ないようにね」 潤は蒼を嗜める。 落ち着いて冷静的な潤、感情的になりつつも熱心な碧、無邪気で感受性豊かな蒼。 性格も全然違うが、三人で力を合わせ、其々のできる範囲で藤棚を作り上げていく。 大掛かりな作業が得意な碧と、手先が器用な潤、飽きっぽいが作業に比較的正確な蒼、其々の強みが見事に噛み合っていた。 藤棚を再生し始めて二週間は経っただろうか。 無事に完成した。 薄紫色の藤が新たに植えられている。 紫の藤、白の藤、そして薄紫の藤。 3色の藤が幸せそうに咲き誇る。 その藤から、潤、碧、蒼の三人への祝福も込められ、花びらがふわりと降り注いだ。 柔らかい、優しい藤の雨ーー 「この藤、雨みたーい!濡れない雨だね」 咲き誇り舞い降りる藤を見て、蒼が嬉しそうに言う。 蒼は夢中で舞い散る花びらを手に取っていた。 その幼き瞳は純粋に輝き、綺麗だったーー (藤を植え直してよかった…) 碧と潤は、再び咲き誇る藤と、蒼の喜ぶ姿に感慨深い思いで一杯だった。 「今から、お花見しようか」 「わーい!」 碧の提案に、蒼は飛び上がって喜び、潤は嬉しそうに笑った。 そして、どこからともなく用意されたお弁当やお菓子、飲み物と一緒に花見を楽しむ。 「これ、美味しい!」 蒼は卵焼きを美味しそうに頬張る。蒼にとっては初めて食べる美味しいものだった。 碧も潤も、美味しそうにエビフライや煮物を頬張る。 味も美味しいのだが、三人で楽しく食べられるのが何よりも嬉しい。 藤棚作りと花見は、家族水入らずで過ごす大切な時間となり、極上の幸せでもあった。 そして、碧と潤は、自らの身体が女性にも変化する事の意味を悟り、この身体になり良かったと初めて喜びを感じる。 大切な命を宿す事ができて、蒼にめぐり逢えたからーー (すべては歌い伝える為に…あなたと生きる為に、蒼と生きる為にも生きてきたんだ…) 碧と潤は、心の中で生きる喜びを身体いっぱいに感じていたーー 7d185819-4839-48c2-afdb-970e758bad43
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