35)碧と潤(懐孕)

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35)碧と潤(懐孕)

碧と潤は、紫と白の藤が咲き乱れる藤棚の中を、手を繋いで歩いていた。 藤の花々は変わらずに、繊細な花を咲かせ時折揺らめいているが、碧にはいつもより艶を帯びているように感じていた。 まるで、藤の「媚薬」に溺れるかのように。 「少し休憩しよう」 潤には碧が疲れているように感じ、休むよう促し、藤の樹木の傍に腰掛ける。 女性の姿になった碧は、微睡んだ状態のまま、潤の手のひらに触れる。 その瞬間ですら、心が高鳴り、何処か遠くに行きそうな気がしていた。 潤は碧を、肩に抱き寄せる。 潤の優しい眼差しにも、碧は一瞬苦しくなる。 いつもの潤さんなのに… まるで初めて出逢ったときのように感じる。 碧は恥じらいからか、直ぐに視線を逸らしてしまう。 「碧、正直に話してみて?」 いつもは無理強いしない潤だが、今日は話すよう促してみる。 碧が何かを伝えたい気持ちが、強そうに見えたのだ。 「俺、今日は何だか…潤さんに甘えたい…」 碧はふわりと、潤を抱きしめた。 一瞬、藤の儚い香りが漂う。 「潤さん…」 抱いて、と無邪気に甘える碧の唇を、潤が唇で塞ぐ。 「碧…」 潤は、白い純粋な藤の秘められた艶気に酔っていた。 碧は純粋無垢な眼差しを向けながら、愛をせがむ。 「潤さん…もっと抱いてよ…寂しい…」 碧は潤が一瞬離れただけでも、悲しい気持ちになる。 今日の碧は、悦楽を求める気持ちが強く、感じやすいだけではない。 潤が少し離れただけでも、寂しい感情に襲われる。 碧の気持ちを察した潤は、華奢な身体を力強く抱きしめ、唇に押し付けるように口づける。 潤は碧が求めるままに、何度も口づける。 碧は苦しそうに呻きながらも、潤に口づけをせがんだ。 「……!」  潤が碧の乳房に、その中心に触れる。 碧は潤に触れられただけで、自然と声も大きくなる。 胸元だけでない。身体の凡ゆるところで、潤を感じていた。 潤には、碧の女性の色香の中のあどけなさにも、胸を熱くしていた。 「碧、俺も甘えたい…」 潤も碧に縋るように、きつく抱きしめる。 「離れたら嫌だ…ずっと抱いてて…」 お互いが離れるのが怖い 離れないで… 愛する人に甘えたい ずっと…抱いてて… 碧と潤は、その一心で求め合った。 抱き合いながら、愛に潤う藤に守られ、 二人は溶け合い、一つになった。 藤の花の悦びが、命を繋ぐ「歓び」にも変わりゆくようにーー 碧はあの日以来、身体が元の男性に戻る事はなく、ずっと女性の状態が続く。 いつもなら女性の姿になってから、長くて2,3日で元に戻るのだが、今回は1週間、10日以上経っても戻らない。 2ヶ月経っても、碧は「女性」の状態だった。 そしてこの間、体調がすぐれない日が増える。 思う通りに身体が動かない、直ぐに疲れたり、いつもは感じない眠気にも襲われる。 碧も潤も、お互いに労わる傍ら、碧自身のある兆候を予感し始めたーー 碧は潤と極秘に、とある病院を訪れる。 そこは、剛毅の知り合いが経営する病院。 何か兆候があれば行くように、と以前から伝えてあった。 医師が診察し、穏やかな口調で告げられた事は 「おめでとうございます。8週目に入っていますね」 碧の中に宿った、新しい生命。 小さな命には、心音も鼓動も芽生えていた。 「嬉しい…俺たちのところに来てくれたんだ…」 碧は潤と顔を見合わせて喜ぶ。 その綺麗な瞳達には、歓喜の涙が宿っていた。 「これから、宿った命を大切にしていきましょうね。僕も医師として支えていきます」 優しく背中を押すような医師の言葉に、碧と潤は頷き、謝意を伝えた。 碧と潤は病院から戻ると、新しい命の芽生えに心が躍らせながら藤棚へ連れ立った。 新しい生命に、紫と白の藤の花びら達は、微笑むように揺れていた。 「藤も、喜んでくれてる…」 碧と潤は、歓喜の涙を流した。 碧の腹部に、二人はそっと手を重ねる。 小さな、温かい鼓動。 碧と潤は、そっと抱き合う。 新しい命が生きている証を実感し、喜び合った。 俺たちの元に、来てくれてありがとう… あなたを守るから ずっと一緒に、生きていこうね…
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