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06)憧れから愛へ
碧が潤の前座ステージを務めた数日後、所属事務所のF-LARGE宛に、客席後方で観ていた観客から素晴らしかったという旨のメッセージが届く。
剛毅はメール全文を、碧に転送した。
『空羽碧さん、はじめまして。
雨音潤さんのライブを観た者です。
空羽さんのステージも観ました。
あなたの歌声も素晴らしく、心に響きました。
何よりも私は客席最後方で観てましたが、ものすごく響いて、後ろの席に伝わるように歌って下さったことも嬉しかったです。
雨音さんの若い頃も思い出しました。
あの方も若い頃から全身全霊で伝え、現在も真っ直ぐに歌ってくださる方です。
先日の空羽さんからは、まさにその気概を感じました。
これからも曲を聴きますので、頑張ってくださいね。空羽さんがライブをする機会があれば、また観たいと思います』
日が経つにつれ、碧への少しずつ反応も増えていく。
歌以外にも、碧自身のビジュアルに触れたものも。
素朴な雰囲気であどけなさが残るのに情熱的な感じがいい、という声も少なくなかった。
ライブの後のデビューCDの物販はあまり売れなかったが、後日配信された曲を聴いてCD購入に至った、というメッセージが何件か届く。
「こんな俺の曲を聴いてくれたり、心を動かされる人がいたなんて…」
碧は感謝と共に、歌って良かった…そして、生きてよかったと心から思えた。
何もかも否定されてきた子供時代の事を思うと胸が痛むが、自分の強さを引き出してくれた剛毅、自分の特性を理解してくれる事務所、ずっと憧れてきた潤には感謝しかなかった。
「碧、良かったな!」
剛毅は碧の肩を叩き、心から喜んだ。
二人でハイタッチする。
剛毅は碧の幼い頃からの苦労を知っているだけに感慨深い気持ちになり、碧に出会った喜びも実感していた。
そして碧は、日が経つにつれ潤の事を想うようになっていた。
憧れが恋に、恋が愛に変わっていくことを、碧は気付かないままに、碧は潤の事を想う度、身体が熱くなり胸が苦しくなる。
学生時代に同じクラスの女の子に片想いし、見つめるだけでドキドキしていたが、あの頃より胸が高鳴り頭から離れない。
何よりも想うことに苦しさも感じることは、今迄になかったことだ。
「でも潤さんて…男の人だよね…」
潤を想う度に、碧の中に迷いが生じる。
「男性」に対してもこんな気持ちになるのだろうか…
潤が男性という事で、気持ちを抑えたり違和感があったが、次第に愛が強くなり、想いが抑えられなくなってきたーー
ダイヤよりも輝く瞳。
きれいな、何物からも穢されなき瞳。
碧の頭からどうしても離れられず、思い出す度に愛おしく、苦しくなる。
碧は潤から渡された「手紙」を大切に、棚の引き出しの奥にしまっていた。
繋がりを絶たれない、潤の個人情報を守る、という理由もあるが、何よりも丁寧な文字で綴られた言葉が、碧の原動力にもなっていたのだ。
潤宛にメッセージを綴ったので、あとは送信するだけだが、心身が震え、直前で止める事が何度も続いた。
(今日こそは、潤さんに想いを届けなきゃーー)
遂に意を決して送信した。
送信する前、何度もメッセージ内容や連絡先に間違いがないか確認したが、それ以上に潤に嫌われないか、送った後も不安もあった。
『こんばんは、空羽碧です。
潤さん、先日はありがとうございました。
こんな俺をステージに立たせて下さり、本当に感謝しています。
俺自身はまだまだ緊張したり、声も未熟な事もあり反省点もありますが、いつか潤さんのようになりたいです。
潤さんのステージは、本当に感動しました。
綺麗で柔らかいお声なのに、力強くて…
俺も潤さんとお話しがしたいです。
こんな俺でよければ、お返事下されば嬉しいです』
碧は潤に想いの丈を綴った。同時に強要にならないように慎重にメッセージを送った。
潤と繋がる期待よりも、嫌われないか不安の方が大きかった。
メッセージを送った後も、碧の心身は震えていた。
碧が潤にメッセージを送った数時間後
「雨音 潤」から返信があった。
『連絡が来て嬉しい。ありがとう。
あと、返事が遅くなってごめんね。
今、新曲のレコーディングが終わって帰宅したところ。
君がよければ、これから色々お話しよう。
時間は大丈夫?疲れてないかな?』
(潤さんも疲れているだろうに…)
碧はそう思いつつも、
『俺は大丈夫です!ありがとうございます。
俺も潤さんと話がしたいです。
それから、俺の事はなんでも呼んでいいです。
潤さんの方が歳上なので、呼び捨てでもいいです』
直ぐに潤から返事がある。
『それでは、君の事は「碧」と呼んでいいかな?』
『はい!嬉しいです』
それから二人は「碧」「潤さん」と呼び合いながら、様々な言葉を交わす。
碧と潤の時間が動き始めた。
同時に碧の、潤に対する想いも加速し始めたーー
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