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「この板の中に針が入っていて、それを、この鍵を差して動かすと、仕組みを作動させることができるのです。その仕組みで、扉や蓋が開かないように、または開くようにできるのですわ」
「それで見張りは要らなくなるのね」
アヅミは錠前の真ん中を指さした。
「この錠前は使用者が、この10箇の穴のうち、ひとつを選んで仕掛けることができます」
「ん?」
「たとえばこの、上の錠前は、左から2つ目の穴に仕込まれていたので、そこに鍵を差さないと作動しません。鍵を差して閉めた人物、ここが正解だと知る人物しか開けられないということです」
「その鍵を持っているだけじゃだめなんだ?」
「そう。この館には錠前のある扉も多いです。この牢は見ての通り、ふたつの錠前が付いている。これは同時に、かつ、ふたつの正解の穴だけに差さないと、開かないようになっています」
「ってことは最大100回試せば開けられるってことだな」
ナツヒも理解した。
「鍵自体は侍従の集う部屋にいくらか置いてあるので、ふたつの錠前くらいなら試行すればいいでしょう。この館には最大4つの錠前を構える何かもありますわ」
「閉めた本人以外は、絶対に開けられないようにする扉、ね?」
ユウナギは錠前を、旺盛な好奇心でもってじろじろと眺める。
「鍵と錠前、男と女みたいで心が弾みませんか?」
そんな彼女の耳元で、アヅミが突如ささやいた。
「え?」
「愛しい人に正解を、密やかに伝えたいですわね」
「いいからもう行け! こいつに何か力のつくもの食わせてやってくれ」
欲しい情報は得たので、ナツヒは彼女を急かした。
「ナツヒは何、ユウナギ様の父親か何か? ……なら、鍵は掛けずに行くけど、頃合いを見て私が迎えに来るから大人しく待ってなさい」
アヅミはナツヒに対して、鼻であしらうような態度をとる。多分これが一般的な兄妹なのだろう。
そしてナツヒが妹をいかに信頼しているか、ユウナギには納得できた。
ユウナギは彼を一度見つめて、アヅミに連れられ地上へと出た。
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