5歳児とガールズトーク ~ 神とは?(哲学)

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5歳児とガールズトーク ~ 神とは?(哲学)

 その夜、ユウナギはもてなしの一環として、少女を敷地内の温泉に連れてきた。  通常は女王と王女だけが使用する、最高に贅沢な場だ。  そこでユウナギに寒気が走る。思ったより多くのあざが少女の身体にはあった。  そして湯につかる時、彼女の表情(かお)は苦痛で歪んだ。それを見せまいと耐えている感じも受けた。 「……何も言うな」 「そういうわけにはいかない。お願い話して。力になれることがあるなら私……」 「母上は何もしとらぬ」 「…………」 「何じゃ?」 「私あなたの母君がどうとか、今はひとことも言ってないけど」  少女は赤くなって、気まずさを隠すために後ろを向いた。 「大人は私が不気味だと言う。かといって年相応にふるまうことも今更できぬ」 「確かにその見た目で大人と同じように話すのは驚きだけど……。予知ができるならむしろ大事にされてもおかしくないような」  少女は伝えたくて振り返った。 「たとえば、これから落石があるから出かけぬよう言ったとする。そして本当に出かけずにいたら、何も変わらぬ時が過ぎる。その者には助けられた実感もない」 「でも地震も当てたんでしょ?」 「私は人々に地震のことを、その3日前に話した。じゃが規模が大きかったせいで、あらかじめの対策もほぼ無駄であった。逆に私が地震を呼び込んだと感じる者もいた。予言はそんな良いものではない」 「そんな……」 「国の女王が崇められるのは、めったにまみえることのない偶像のようなもの故よ。身近にある未知の力なら、そんなものは恐怖の対象じゃ」 「神と災いを呼ぶ(もの)()は紙一重なのね……まぁ実際そんなものかも」 「おぬしは神の加護を(うた)い国を保つ次期女王だというのに、そのようなことを口にして良いのか?」  少女の来訪で、少しの間忘れられていた悩みがまたどんとのしかかり、今度はユウナギが目を伏せた。 「私に特別な力はないわ。神の存在を信じる方が無理」 「信じとらぬ?」 「自分の中で、神とは……」  果てしない夜空を見上げ、語り出す。
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