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「生きものやそれらが生まれ続けるための土壌を造りだした、大いなる力のことだと思ってる。こんな小さな国に都合のいいものを与えてくれる、慈悲深い存在なんかじゃない」
「みなが信仰している類の存在は、否定しているのじゃな」
力を持つ少女は、それはあながち間違いではないと思う、と小さな声で言った。
「なんでか分からないけど、神は生きものを、ただひたすら生きるように、その命を繋ぐように造った」
ユウナギはだんだん語気を強める。
「でも生きることって過酷でしょう? 食べなきゃ生きていけなくて、その食べ物を得るだけに生涯の大半の時と労力を使って」
「日々を必死に生きていても、災害やらで命など一瞬で吹き飛ばされてしまうしな」
「そう。どうして神はこんなふうにこの世を造ったのって悲しくなるけど、それでも逆らえない。命を一時でも永らえたいし、自分が消えるまでに新しい命を生みだしたい。正直、国どころじゃない!」
「次の命が生めれば、どの男の、子でも良いのか?」
その問いかけには、あれ? 今そんな話だっけ? と思いつつも真面目に答える。
「まさか。神はそんなふうに生きものを造ってない。きっと猪でも鳥でも、この相手と番いたい! って見定めるものよ」
「ふぅん。それで、おぬしはどちらの男の、子を生みたいのじゃ?」
「へ?」
「どちらかじゃろ?」
ふたりの頭上に兄弟の顔が浮かぶ。
「……言うまでもないわ」
そう照れながら、湯に漬かってぶくぶく泡を吹いた。
「もしおぬしが好いた男の子を生んで、その男が他の女にも子を生ませていたら?」
ユウナギは目を丸くした。この時代には愚問だろう。
「……私自身が生んでるなら他は関係ないし、それは普通のことでしょう」
「そうか。兄弟がたくさんできて、いいことじゃな」
「きょうだいいるの?」
「母の違うきょうだいはたくさんおるが、会うたことはない」
「なら、子どものための催しを何が何でも開いて、兄弟も呼ぼう。遊び相手もたくさん作ろう」
「……うん」
コツバメは意外にも嬉しそうだった。
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