某HRゲームはたぶんこうやって生まれたんじゃないか劇場

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 そこで4人は、複数の参加者が合図で同時に駆け出して、ひとつの座席に早く着いた者が勝ち、というのを想像した。 「催しの主な企画が競走なのだから、走るのは置いとかない?」 「走る時点で力の差は出てくるしな」 「大勢で狭い範囲を走ったらぶつかるし」  5つの子が15歳と対等に遊ぶにはどうすればいいかを考え始め。 「取り合う座席がすぐそばにあったら走らずに済むけど。どう?」  ユウナギはそこらに転がっていた“むしろ”を敷いた。  そしてその周りにナツヒとコツバメを立たせ、自分はふたりに背を向ける。  次に顔だけ振り返り、 「私が口笛を鳴らしたら、相手より早く座ってね」 と言うので、そこには緊張の空気が張り詰めた。  さて。  ひゅう! と音が鳴ると、もちろんふたりは同時にそこをめがけて尻もちをつく。 「私の方が先じゃぞ!」 「俺だよ、半分以上俺だし」 「おぬしの方が尻がでかいから当たり前じゃろ」 「ふむ」  ユウナギは若干の手ごたえを感じている。そこにアオジが口を挟んだ。 「それちょっと動いてたらどうだろ?」 「動く?」 「口笛鳴るまで、そのまわりをぐるぐるまわってるとか」  それならどちらが先かという曖昧さも緩和するかもしれないと。  そこでユウナギはむしろをもう一枚追加して、アオジも入れてやってみた。  すると、ちょうど2枚の間で止まったアオジが、どちらか迷ったせいで座れなかったのだ。 「「「「これだ!」」」」  再び4人は声を揃えた。 「しかしこのむしろじゃ、そのたび尻もちをつかねばならず、尻を痛めるのう」 「台座にしたらどうかしら?」 「そんな丁度いい台がいくつもあるか?」 「木材用意して作ろう!」  男ふたりは、暇な人は平気で無茶を言う! と思ったが、相手は曲がりなりにも王女だ、口にはできない。  屋敷周辺の大工たちに協力を仰ぎ、ナツヒの子分の少年たちも引っ張りこみ。  日をまたぎ丸一日かけて、立方体の木箱を同じ大きさで30個ほど制作した。  子分たちは自作の作品に喜び、座ったり乗り降りしたりしている。 「座りたくなるよね!」  ほがらかなひとときである。 「じゃが、座る合図が口笛じゃ味気ないし、遠くまで聞こえぬ」 「音量は鐘に変えればいいとしても、それじゃすぐ終わっちゃうってのもあるね。なにか良い案はないかな」  ふたり黙々と考える最中、木箱の上に立って意気揚々と唄いだす少年がいた。  そしてナツヒが 「お―い、作業終わったんだから片づけ手伝え!」 と言った瞬間、その唄が途中でぴたりと止まり静かになった。 「これだ」  ユウナギはこの話し合いを始めてから、胸のすく思いを何度か感じている。 「唄に合わせて箱の周りを踊りながらまわるの。そして唄い手が急に唄い止めたら、それが合図」 「ほぅ、試してみる価値はありそうじゃ」  翌日屋敷の者を使って試してみることにした。
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