いくさの足音

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いくさの足音

 その後、そろそろこの日は解散かといった頃、兄トバリが血相を変えて飛び込んできた。 「ユウナギ様!」  彼女をみつけるやいなや、がしっと肩を捕まえその顔をのぞき込む。 「トバリ兄様?」 「良かった、ご無事ですね? 何か変わったことはありませんか?」  周りの者らがじっとふたりを見た。 「どうしたの、兄様?」  ナツヒとコツバメもふたりに寄ってきた。 「何か?」  ナツヒはいくらか察したようで、表情が険しい。 「先ほど女王から告げられた。王女に危害を加えようと企む者が、この中央にいると」 「え??」  少し考えこむユウナギ。 「そういえばコツバメも言ってた、よそ者がいるかもって……」  そこですぐアオジが顔を出し、 「外部の者? そんなのいるはずが」 と言うのを遮り、トバリは 「信じ難いがお告げがあったのは事実だ。みな、必ず王女をお守りするんだ」 と周りを引き締めた。  それに各々呼応する。  そして彼は弟に 「解決するまで常に王女のそばで控えているように」 と命じた。  もともとナツヒは隊の訓練や実働がない時は、王女専属の護衛をしている。  しかしこのたびは四六時中それが必要な時。その場に重苦しい空気が流れた。  更にトバリはユウナギに話す。 「これは最近入手した情報ですが、隣国が制圧されるのも時間の問題のようです」 「前に話していた、北からの部族?」 「ええ。北方から南下してはその地を制圧し、非常に大きな勢力となりました」 「隣国はそこと争っていたけど、何年も持ちこたえていたのよね?」 「潮目は2年前に変わりました。その北の部族の(おさ)が制圧した地をまとめ上げ、もともと存在していた国の首領も失脚させた。そこで自らを大王(おおきみ)と名乗り、統治を始めたのです」 「その大王ってのはよほど有能なのか?」  ナツヒはなんだか面白くなさそうだ。 「戦局が変わるほど?」 「大王は大衆から神のように崇められているそうです。なんでも、虎神(とらがみ)の生まれ変わりだとかで。信仰で民をより強く変えたのでしょう」 「虎なんて、()の国の物語の中でしか見たことないわ」  現実的なことだと実感を持てないでいる。しかし。 「隣国が落ちるようなことになれば、次はこの国ね」 「それどころかもう戦は始まっているのかもしれない。白兵戦で多くの兵を失う前に、この中央を瓦解させれば、と目論むこともありえます」  それで狙われるのは自分なのか、とユウナギは不安げな顔をする。 「そのための俺だ」  そんな彼女を思ってか、ナツヒが鼻息荒く身を乗り出した。 「不審な者を探し出します。しばらくは不自由かもしれませんが」 「ナツヒがそばにいるのなんていつものことだから、全然不自由じゃないよ」  ユウナギはトバリに気を遣って笑顔を見せる。隣のナツヒはばつの悪そうな顔をしていた。
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