いくさの足音

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 その晩、アオジがナツヒと共にユウナギを呼び出した。  実は3日前ユウナギは彼に、少女の家や周囲のことを調査するよう言いつけていたのだった。  しかしアオジの配下の調べでも、少女が親から虐待を受けていると直接話す者は現れなかった。  母親に関しては、夫の5人目の妻が最近男児を生んだことに追い詰められている様子、とのこと。 「その八つ当たりを自分の子になんて、まさかね、ありえないでしょ……」 「動物は精神的負荷がかかることで子どもを虐待することもある。人だって動物の一種だ」  ナツヒの冷静な物言いに、ユウナギは不満気である。 「人は理性的な生きものだよ?」 「それほどでもないだろ」  ひとりアオジはなんとなく、ふたりのやり取りに口を挟めずにいた。 「平民はみなでみなの子どもを育てる。大人は日々忙しく、子らも小さいうちから手伝いで忙しい。だが高位一族の妻や子女は? 思うよりずっと閉鎖的なところにいるんだろうな」 「えっなにそれ耳が痛い」  やっと口を開いたアオジ。 「妻子いるんだっけ?」 「最近初めて娶ったんですよ! 忙しくて顔合わせてないけど……」  いてもたってもいられず飛び出して行こうとした彼の襟ぐりをつかんで、ナツヒは言った。 「娘を家に戻さない選択もありだな……」  その頃、少女は兄トバリのところに出向いていた。 「今すぐ用意してもらいたいものがあるのじゃが」
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