ちび巫女の機転

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ちび巫女の機転

 翌朝、邑人(むらびと)たちがわらわらと中央に集まった。滅多に入れる区域でもないので、観光気分の者も多くいる。  従者らが競走の参加者から集めた人足(にんそく)の数を、木簡(もっかん)に記録する。  すぐさま50名近くの挑戦者が約6刻(3時間)の走路を駆け始めた。いずれも体力自慢の青年らである。  ナツヒのいとこ達が仕事の合間を縫って見物にやってきた。 「お前は走らないのか」 「負けるのがそんなに怖いか。腰抜けめ」 とナツヒを茶化す。  だが彼は、俺が走ったら人足総取りになっちまうだろ、と言い切っていた。 「さぁ! ちびもおなごもこの合戦場に集まれ! 優勝の品は米俵4俵だ!!」  王女の身分を隠し、進行役の明るいお姐さんという役を請け負ったこの日のユウナギは、はりきって仲間を集めにまわった。  子どもでも賞品がもらえるかもと、大人たちは子を連れて寄ってくる。定員の倍ほど集まったので、2回に分けることになった。 「じゃあ賞品は2俵ずつだね」 「私は賞品いらぬから2回とも出るぞ。優勝目指すのじゃ」 「そう。私は最後まで仕切る係りでいくわ。米俵総取りになっちゃうからね」  規則説明もそこそこに、みなで輪になり唄に合わせて踊り始めた。  勝敗はついでのようなもので、大勢で唄い踊るのは何よりも楽しいのだ。  自分より小さい子の手を取り、えいやあこらさと踊るコツバメも年相応に楽しそうで、ユウナギはとても嬉しかった。  その遊戯も滞りなく終わり、こちらでは男子たちの武器武具の体験、あちらでは木箱を積み上げ鬼ごっこ。  大人たちは結局酒を飲み交わし唄い踊り、競走の参加者が戻る頃まで賑やかな時を過ごした。  そして賞品としての人足(にんそく)の分配も終わり、人々は帰路につく。中央の者らは片づけに入った。  一日はしゃいで過ごしたコツバメは、親に手を引かれ帰る子どもたちに向かって手を振り、ずっと彼らの背中を眺めていた。  そこで、そんな彼女を気にかけじっと見ていたユウナギに、ひとりの侍女が声をかける。 「あの、少々よろしいですか?」  ユウナギはうなずいて、隅の方に寄った。 「あちらのお客人の親族を名乗る女性が、彼女を今引き取っている方とお話ししたいと……」 「!?」  コツバメの家族ではと思った。侍女の腕を掴んで迫る。 「どこにいるのその人!?」 「知った者に見られたくないようで、向こうの林に隠れております」 「会うわ」 「ではこちらへ」  広場を出て、農地の向こうの林に向かった。  ユウナギはその間、きっとその女性はあの子の母親で、わが子を恋しく思い連れ戻しに来たのだと期待した。  林の中に入った。あたりは薄暗く、道がよく分からない。 「どこにいるの?」  すぐ後ろを付いてきた侍女に話しかけたその時。 「痛っ!!」  足首に鈍痛が走り、その場に転んだ。 「痛たた……」  足元を手探りすると、強固な縄で捕らわれている。  打った痛みで頭がくらくらとして、事態が理解できない。  見上げるとそこに、短剣を構えた侍女が立ちはだかった。そこでやっと気付いたのだ。 「私を狙う者とは、あなただったのね」  騙されたと知ったが遅かった。下半身に覆い被られ、 「お命頂きます」 と短剣を大きく振りかざした侍女に対し、ユウナギはなすすべもなく目を閉じる。 ――――殺される!!
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