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プロローグ
王女が夢をみている。
王女はときどき夢の中、空をふわふわ浮かんで過去の、心地よい思い出に浸る。
「ええっと、なになに? 今夜の夢は……」
「準備はいいわね! ナツヒ!」
「とっくにできてるよ」
「今日こそあなたを吹っ飛ばす! てや――っ!!」
まだ身体も子どもながらにか細い、幼い王女はただ今、鉾の鍛錬中。幼馴染のやんちゃ少年ナツヒに向かい、ぐっと握ったそれを振りかぶる。
「100年早いんだよっ!」
「ひやぁあぁ――」
「ふん」
みごと返り討ちにした勝者ナツヒは得意げだ。なんせ彼は将来、軍事官長の座につく男。強いに決まっている。ちなみに彼は、“国でいちばん偉い男”の息子(次男)である。
「ひどい……。ナツヒひどい……」
王女は半べそかいている。まだ10歳だ、甘えたい。
「いや、お前さ、鉾は所詮さわり程度だろ。弓の腕を集中して磨け。そっちのが建設的だ」
「けんせつてき?」
「ユウナギ様!」
「あっ、兄様!」
そこに颯爽と現れたのは、官人の衣服をしゃきっと着こなす、もの柔らかな雰囲気の男性。
王女の面倒見役である青年トバリ。彼も“国でいちばん偉い男”の息子(長男)だ。彼が将来、父親の跡を継ぎ、国でいちばん偉い男となる。
「ユウナギ様、そろそろ舞いの稽古の時間です。女王の元へ参りましょう。……おや、足にお怪我を?」
「ナツヒに吹っ飛ばされちゃったの。でもこれぐらいへっちゃら。明日こそ一本取るんだから!」
「100年早い」
「兄様、おんぶ」
「仕方ないですね。女王の屋敷に入るところまでですよ」
苦笑いした彼は王女をおぶった。3人で談笑しながら、女王の屋敷へと向かっていった。
「ああ、10歳の私、いいな~~。兄様におんぶ……。もう全然してくれない」
もう14なのだから当然である。しかし、彼らは王女の家来だ。命じればきっと、なんでも言うことを聞いてくれる。
彼らの父は“国でいちばん偉い男”であるが、“国でいちばん偉い人間”ではない。
この国でいちばん偉いのは、他の誰でもない、「女王」だ。彼らの父はその女王を、いちばん近くで補佐する男。よって国でいちばん偉い男となり得るのだ。
この“いちばん偉い男”は役職名「丞相」と呼ばれる。「長」でいいではないか、とみな思うが、かつて交流のあった海の向こうの大国では、長のことをそう呼ぶらしい。大国の真似をしたがるのは古今東西、普遍のことだ。
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