友との別れ

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友との別れ

 それからというもの、中央隅の広場には、近隣の子どもたちが集うようになった。  ユウナギはしばしばそこに“近所のなぜか暇なお姐さん”として顔を出していた。  陰からの兵の見張りは必須だが、小さい子たちのはしゃぐ姿が可愛くて、和むひと時なのだ。  あれから3週間ほど過ぎたある日の夕方、ナツヒも一緒にそこに来ていた。  彼が話すには、あの日勝って人足(にんそく)を得た組がそこでの修繕を完了した後、負けた組に貸し返したりして、(むら)と邑の間で協力体制や交流が増えたようだ。  それを聞いて、いい結果になって良かったと胸を撫でおろした時、アオジの配下がナツヒのところにやって来た。  そして彼にだけ聞こえるよう報告をし、すぐに戻っていった。 「どうしたの?」  ナツヒが静止しているのにユウナギが感付いた。 「……コツバメが死んでいたって……」 「え?」  彼はそれ以上口にしない。 「何言ってるの? 元気に帰っていったし、嵐も来てないし、地震も起こってないわ」  まだ何も言わない。 「嘘だよ。アオジはどこ? そんな冗談言うもんじゃないって言ってくるから」 「アオジも2日前に知ったようだ。とっくに埋葬も終わっているらしい」 「……っ。“ようだ”とか“らしい”とか、そんなこと言われても!」  ユウナギは走り出した。 「どこ行くんだよ」  見張りの者に幼子たちをちゃんと帰すよう言いつけ、ナツヒも追いかけて走る。  ユウナギは中央の門を出ようとしていた。単純にその(むら)に向かおうとしての行動だ。  しかしこの場合、行くべき先は馬舎なのかと行き先を迷って立ち止まり、周りを見渡した。  ナツヒは彼女に追いついたが、何も、声をかけられずにいる。 「私、中央から出たこと、ない……」  ユウナギは気付いた。  どうやって中央から出るのか、誰に頼めば馬車を出してくれるのか、そもそも少女の(むら)はどこなのか、外に出たことがないから何も分からない。  何もできないとなると、ありえないとしていた事柄に真実味が帯びてくる。  ナツヒが「帰ろう」とユウナギの肩に腕を伸ばしたその時、彼女は激高した。 「母親ね? 母親がやったんでしょ!? それを止めない父親も周りの者も同罪だわ! 全員捕らえてすべて」 「証拠がないんだ!」  彼女の両腕を掴んだナツヒは、その叫びに叫びを重ね遮った。  アオジより徹底した調査を命じられた配下が、それを確実に遂行していたことを、彼は知っている。 「からだを見れば……」 「もう土の中だ。掘り起こすのか?」  冷静な語気に気圧されたユウナギは、観念してふらふらと屋敷の方へ戻ろうとする。  ナツヒは彼女が無事に帰れるか見張るため、ただ黙って後ろをついていった。
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