カゴの鳥が羽ばたく時

2/3
前へ
/94ページ
次へ
「魔術師?」  ユウナギの目が輝いた。好奇心という名の輝きだ。  行商の青年から聞いた話によると、山に籠って暮らしているその魔術師は、ふしぎな薬を作るのだそうだ。  中には万能薬もあり民にありがたがられるので、それを仕入れ商人は(むら)で売りさばく。そして食料や平地でしか得られない材料を魔術師にまわす。  それを繰り返すうちに彼は、特に用がなくとも、そこに出入りするようになったのだと。 「魔術師と友達になったのね」  ある日彼は、失敗作の処分を頼まれる。それは土器になみなみと注がれた液体のようだった。  荷台に積みあげ山を下り、平地の広場に出た。そこはこの間の小競り合いの跡地で、どうにも異様な雰囲気だった。日が落ちた後でなくてはおどろおどろしくて、素通りできなかったろう、と彼は思う。  そこで土器を抱え上げ、その液体をばしゃりと振りまいて捨てた。 「すると、あたりが瞬く間に輝きだしたのだそうです」 「輝きだした?」  更に手前へと、次の土器の中身を投げ捨てた。  そうしたら、先に続く光る線が浮かび上がったのだ。 「それは無念のうちに死んでいった亡者たちの、道標(みちしるべ)なのでは、と彼は話していました」 「そんなふしぎなことが……?」  ユウナギは立ち上がった。 「魔術師に会いたい。その山に行く」  当然、何を言ってるんだこの子は、という顔で、トバリは彼女を見上げた。 「お願い兄様。私を外に出して」 「そのようなことを許可できるわけがありません」  彼女に対して大抵のことは甘い彼でも、こればかりは譲らないだろう。  それでもユウナギは何かを変えたくて、これはその機会だと思った。 「私は中央から出たことがない……」  以前のことを思い出した。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

76人が本棚に入れています
本棚に追加