カゴの鳥が羽ばたく時

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「女王はまるで籠の中の鳥だわ。特別な力を持っていても、その力をいくら認められていても、国の本当の今をろくに知らない。自分の目で見ることができないから」 「ユウナギ様……」 「でも女王は仕方ないことだと受け入れている。その代わりの目となるための丞相(じょうしょう)だろうし。私も女王になった後は、その運命に従うわ。だけどそれまでは……」  彼の袖を堅く掴んで食い下がる。 「私を外に出して。他の(むら)の景色を見てみたいし、まだ見ぬ人と出会いたい。決められた門限にはちゃんと帰るから」  そう指を組んで願う彼女の必死な様子に、トバリは溜め息をついた。  歴代の女王は屋敷の中で吉兆を占い、まじないを施し過ごす。その命が尽きるまで。  それ以外は不要だ。  それを確実に見守る義務があるというのに、彼女の、人としての成長のため、その申し出を切り捨てられない自分がいる。 「必ずナツヒを隣に置いて行動してください。片時も離れないように」 「……は、はいっ!」  ユウナギの顔が一気に明るくなった。 「本来なら王女の外出などありえたとして、侍女も兵も何十人と召し連れるもの。しかし、今回のことは明るみにしたくない、私の我がままです」  彼の胸中にもいろいろと複雑なものがあるようだ。 「国の中なら概ね平穏です。行商人が常に行き来している道程ですし。それでも無謀なことは絶対にしないでください。今回の旅の刻限は6日後の夜です」  ユウナギは早速緊張してきたのか、ぐっと息を飲み込んだ。6日間王女の不在をごまかす彼の心労はいかばかりか。 「行商人の(むら)まで馬車で2日かかります、現地ではそう余裕もない。目当ての人物と必ず会えるとも限らない。いいですね」  そして途中の邑では親族のところで一泊できるよう、すぐ通知すると話した。 「もう一度、いちばん大事なことです。あなたに万一のことがあれば、ここ中央は混乱に陥る。私はもちろん、ナツヒも責任を問われます。どういうことになるか想像できますね」 「…………」  一瞬言葉を失ったが、真剣な顔で頷くユウナギであった。  何かあったら自分ではなく、自分の大切な人の責になってしまう。その不安は帰宅するまで付きまとうのだろう。  しかし、初めて外の世界に出られるのだ。  ユウナギは(はや)る心を抑えきれずにいた。
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