私をさらう冷涼な風

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私をさらう冷涼な風

 帰り道の山中。  思っていたより順調に事が運び、ユウナギは指定された門限より1日早く帰れそうだと安堵する。 「こんな怪しげな薬どうするつもりだ?」 「確かきらきら光るという話だったから、戻ったらとりあえず、墓石にでもかけてみようかな」 「光る? ご先祖に叱られないか?」 「怒らなそうな人を選んで……。じゃあコツバメの墓で」  その時、ユウナギは何かを聴いた。 「どうした?」  空を仰いできょろきょろと見回すユウナギを、ナツヒが怪訝な顔で見る。 「こっちかな……」 「?」  藪をかき分け道から外れゆく彼女を、ナツヒは不審に思い止めようとする。  が、まるで何かに憑りつかれたような彼女は何を言われても上の空。  ふたり、どんどん草木のなか進みゆく。 「どうしたんだよ? 道に戻ろう、このままじゃ本当に帰れなくなる……」  その時、ユウナギは自らに異変を感じた。  冷たい風にさらされている心地がして、両腕で自分の肩を掴み、背を丸くした。 「ナツヒ……なんか私、吸い込まれそう……」 「吸い?」 「手を握って」  そう言って震える手を差し伸べた。 「手?」  訳が分からないナツヒは、言われるままその両手を握る。 「だめ……だんだん強くなる……!!」  その訴えと同時に、ユウナギはナツヒの手を振りほどき彼に飛びついた。  そして心の中で、こう叫んでいた。  ――――――私、飛んでっちゃう!!!
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