プロローグ

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「御母様、本日もご指導のほどよろしくお願いいたします」    夢の中の王女が女王の前で淑やかに頭を下げる。舞いを女王に習い始めてから3年が過ぎた頃だ。  国の女王はこの世のものとは思えぬほどの、美しい舞いを民衆に披露する。  まさしく、神の使いとして――。  神に愛されし巫女である女王は、天に舞いを捧げることで、神をその清らかな身体に呼び寄せ、有難き言葉を地上の人々に伝える。  民衆は女王を崇めたてまつる。建国より絶えず女王に護られ、国の平和は保たれているのだから。  舞いの稽古を終え、次はトバリによる歴史の講義だ。 「兄様、海の向こうの大国について学ぶのって、とっても面白い。すごい文明国! さすが千年を超える歴史を持つ国ね!」 「それは良かった。かつての女王が()の国に朝貢(ちょうこう)し交易を求めたことで、この国もとても豊かになりました」 「でもその交易は何十年も前に止まってしまったのよね。それからまったく交流がないなんて。中央にある書もそれまでのものばかり」 「そうですね、いくつか理由があって。しかし今も丞相(じょうしょう)は、国交の回復に向け、力を注いでいます」  王女は実際、ここ3年でよく学んだ。3年前は文字なんて知らなかった。知る必要などない。  なぜなら、ただの、平民の娘であったのだから。  そう、王女は「生まれながらにして王女」ではなかった。  女王の住まいや国の行政機関が集まるこの土地を「中央」と呼ぶ。  中央の片隅に物心ついた頃の彼女は暮らしていたが、この屋敷にひとり有無を言わさず連れてこられたのは、7つになるかという頃。    いったいなぜ、そんな娘が突然、王女の地位に?  ここは神の声を聴く巫女を女王として擁立(ようりつ)し、存続する国。  次を選ぶのは女王の、やはりふしぎな力による。女王は自らを継ぐ、神と伝う力を持つ者を見出す「目」を持っているのだという。  彼女は現女王によって、ありし日に見つけられたのだった。
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