犯人を追い詰めろ!

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犯人を追い詰めろ!

 ふたりはその荷車の持ち主を調べ、(むら)に戻った。  男にはふしぎな薬のことは伏せ、いろいろと調査した結果、怪しい人物が挙がったと話した。  今は疑いの域を出ないし、本日はもう日が落ちている。明日その邑に出向き詰問し、返ってくる反応を見てみよう、と持ちかけた。  翌日の夕刻。  急ぎ足で被疑者のところに出向く3人。その前にユウナギは、例の荷車の後輪を拝借してきた。使用中でなくて良かったと思いながら、背台に隠す。  邑の倉庫に(くだん)の者はいた。  男は顔を赤くして、ふたりの示したその人物を問い詰める。すると疑われた者は、うわずる声で自分ではないと言い、逃げようとするのだった。  傍観していたナツヒは、よくこんなあからさまな態度をとれるなと絶句する。  とうとう、男は被疑者に掴みかかった。 「お前なんだな!! ふたりを死なせたのは……殺してやる!! お前を殺して僕も死ぬっ」  ユウナギは隣のナツヒにさっと振り向いて、彼は(うなず)き、拳を振り上げた男の急所にまたもや一撃を入れる。  そして倒れた彼を抱え、隣の民家に置かせてもらってくると走っていった。  残された男は「なんて奴だ、違うと言ってるのに」と、そのまま逃げようとする。 「待ちなさい」  ユウナギがここで、怒気を込めた声で男を止めた。 「本当に俺じゃない。証拠はあるのか、俺だっていう証拠は」  男は薄ら笑いを浮かべている。不安の表れとみえる。 「……私は神託を授かる、巫女の血を継ぐ者です」 「は? なにを……」  彼の横を通り過ぎ、こう続ける。 「私は神に尋ねました。神はどんな些細な罪でも、見逃しはしません」  そしてまっすぐ歩みを進め、入口の外に置いておいた車輪に残り少ない薬を全部振りまいた。  外はちょうど日が落ちて真っ暗だ。  車輪を手にし、入口に(たたず)む少女の輪郭を、男は見た。 「この輪の主が卑怯な殺人者だと、神は告げています」  暗闇で弧を描きながら青白く輝く光と、神の化身である少女。  犯人はおののきうなだれ、 「わざとじゃない……わざとじゃないんだ……」 と力なく伏した。 「なぜか……急に馬が暴れだし、止められなかった……自分が振り落とされないよう必死で……(むら)に着く頃ようやく収まったんだが……真っ暗で戻ることもできず……」  その時ナツヒが急いで戻ってきた。ユウナギが無事で安心する。 「なんですぐ打ち明けなかったの?」 「正直に言ったところで許されるものでもないだろう……。俺自身が罰を受けるだけなら構わんが、俺には親も妻子もいる。邑の者から家族全員、石を投げられる暮らしが待っている。そうして(むら)から追い出され……。これからどう生きていけっていうんだ!」 「わざとじゃないんでしょ? 仕方のない事故だったんでしょ?」 「誰がそんな事情を汲むものか! 関係のない奴らほど、それで納得しないものなんだよ!」  そこでナツヒが口を挟む。 「とにかくお前は朝一で役場に出頭しろ。故意でなくても人を死なせ、それを隠してたんだ。相応の罰を受けなきゃな」  自白はしているし、これ以上追い詰める必要はないとユウナギは判断し、そこを出た。民家に顔を出すと、男はもちろんノビたままなので、ふたりは持ち小屋を借りた。 「こんな固いところで寝られるか?」 「最近でかなり慣れたし、平気。でもちょっと寒い……」  ナツヒは「仕方ねえな」と、壁にもたれる彼女の隣に座り、自分らに織物を掛けた。 「仕方ねえって、ナツヒも暖かくなっておあいこでしょ?」 「俺は鍛えてあるから寒くねえもん」 「私だって鍛えてあるけど、寒いものは寒いわ」  互いに憎まれ口を叩きながら、緊張が解れたのか、ユウナギは彼の肩に頭を寄せ、すぐさま眠りについた。 「お疲れさん」  彼も十分疲れていたのだが、なぜかなかなか寝付けなかった。
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