プロローグ

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 夢は暗転し、次の幕が開いた。 「ん~~? 10歳の頃の夢はあれでおしまいか。次の夢は―っと……」  少し背の伸びた王女が、女王の部屋に呼ばれている。女王は上質な畳の上にて楽に座しており、そこから数歩下がった位置に王女が正座していた。 「あっ、確かこの場面ってアレじゃないかしら、12歳の時の。これはわざわざ夢で見たくないわ。さっさと目覚めよう」 「月のものが始まったそうですね。これでそなたも立派な成人です」  女王は優しく微笑んだ。 「はい。侍女からすべて聞きました。これで私も世の女性と同じく、子を身ごもる身体になったと」 「そうですね」  その時、女王が言葉を飲み込んだのを、王女は見逃さなかった。  しかしそれはほんの一瞬のことで、その美しい形の唇から、ゆるりと言葉は告げられた。 「ですが身体がどうであれ、そなたは生涯、子を身ごもることはありません」  場が静まり返る。 「……は?」  王女は明後日の方向を眺める。 「……??」  なんか断言された気がする~、とふんわり思った。 「なんですかそれ。予言ですか?」 「いいえ」  首をかしげる王女に向かって女王は説き始める。 「百数十年前、国の成った時からのならわしです。神に仕え、神とことばを交わす巫女、つまり代々の女王ですが、異性と交わることは禁忌とされています」 「どうして?」 「巫女は神前に差し出す供え物に他なりません。人が食したあとのものを、神に供えますか?」 「意味が分かりません」  いやまじめに意味が分からない。と王女がぶつぶつ呟くので、女王の笑顔が消えそうだ。 「神より与えられし、神と交信するふしぎな力……それは禁忌を犯すとたちどころに消え失せる、と言われています」 「でも、そんなこと言われても……」  王女は正座をくずし、そのまま4つ足で前進し、女王に掛け合おうとした。 「私、この人の子を生みたいと願う相手がいるんです!」  女王はそれが誰なのか聞きもしない。  穏やかな表情をまったく変えず、目線だけで無力な娘を静かに威圧していた。  母親にありがちな「いいから言うこと聞きなさい」である。  王女は立ち上がった。 「だいたいねぇ……そもそも私には……」  力を振り絞り、天に向かって声を張り上げた。 「その特別な力が、ないんだから――――!!!」
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