81人が本棚に入れています
本棚に追加
夢は暗転し、次の幕が開いた。
「ん~~? 10歳の頃の夢はあれでおしまいか。次の夢は―っと……」
少し背の伸びた王女が、女王の部屋に呼ばれている。女王は上質な畳の上にて楽に座しており、そこから数歩下がった位置に王女が正座していた。
「あっ、確かこの場面ってアレじゃないかしら、12歳の時の。これはわざわざ夢で見たくないわ。さっさと目覚めよう」
「月のものが始まったそうですね。これでそなたも立派な成人です」
女王は優しく微笑んだ。
「はい。侍女からすべて聞きました。これで私も世の女性と同じく、子を身ごもる身体になったと」
「そうですね」
その時、女王が言葉を飲み込んだのを、王女は見逃さなかった。
しかしそれはほんの一瞬のことで、その美しい形の唇から、ゆるりと言葉は告げられた。
「ですが身体がどうであれ、そなたは生涯、子を身ごもることはありません」
場が静まり返る。
「……は?」
王女は明後日の方向を眺める。
「……??」
なんか断言された気がする~、とふんわり思った。
「なんですかそれ。予言ですか?」
「いいえ」
首をかしげる王女に向かって女王は説き始める。
「百数十年前、国の成った時からのならわしです。神に仕え、神とことばを交わす巫女、つまり代々の女王ですが、異性と交わることは禁忌とされています」
「どうして?」
「巫女は神前に差し出す供え物に他なりません。人が食したあとのものを、神に供えますか?」
「意味が分かりません」
いやまじめに意味が分からない。と王女がぶつぶつ呟くので、女王の笑顔が消えそうだ。
「神より与えられし、神と交信するふしぎな力……それは禁忌を犯すとたちどころに消え失せる、と言われています」
「でも、そんなこと言われても……」
王女は正座をくずし、そのまま4つ足で前進し、女王に掛け合おうとした。
「私、この人の子を生みたいと願う相手がいるんです!」
女王はそれが誰なのか聞きもしない。
穏やかな表情をまったく変えず、目線だけで無力な娘を静かに威圧していた。
母親にありがちな「いいから言うこと聞きなさい」である。
王女は立ち上がった。
「だいたいねぇ……そもそも私には……」
力を振り絞り、天に向かって声を張り上げた。
「その特別な力が、ないんだから――――!!!」
最初のコメントを投稿しよう!