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鍵と錠前、男と女
「魚の餌って。お前を死なせて俺がおめおめと国に帰っても、魚の餌になる結末だぞ」
「丞相はそんな酷いことしないわ」
「いや、する。兄上だって、する」
「そ、そう?」
ナツヒは深く溜め息をつく。
「とにかく、お前は全力で自分が生き残ることを考えろ。もうダメだってなっても、一瞬でも長く生きろ、俺が助ける可能性を伸ばすために。……俺は死なないから」
「砂袋になっても?」
「なっても」
「分かった、私が生き残る方を選ぶ……。でも、もう……こんな二択は嫌だよ。もう2度と、考えたくもない!」
「…………」
涙がこぼれないようにひたすら目に力を入れるユウナギを前に、ナツヒはアヅミへ、女じゃなかったらタコ殴りにしてやる、という視線を牢内から送った。
アヅミは決まりが悪くてそれを無視した。
悪趣味だったと認めているので目を逸らしはしたが、自分だってすぐ止めなかったくせに、と思ったようだ。
話も終わり、アヅミは懐から何やらを取り出して扉に差した。そうしたら扉が開き、彼女はユウナギの手を引いた。
牢から出たユウナギは、その場で彼女に尋ねる。
「ねぇ待って。これ何?」
さきほど牢内から触った、扉に付属している分厚い板を指さす。
「これは、錠前です。扉や蓋が開かないようにするからくりですわ」
「からくり?」
ナツヒも牢内から説明を聞く。
牢の外から見ると、錠前という名の板は扉に2つ付いている。そしてそれらはいくつかの穴を持つ。
「これが対になる“鍵”というものです」
言いながらアヅミは懐にしまった棒のような物を2本、再度取り出して見せた。
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