ちび巫女との出会い

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ちび巫女との出会い

 女王の住まいのそばに、丞相一族の執務室が連なる。  その中の、広い客室の入口からのぞいたら、小さな娘が真ん中にぽつんと座らされていた。  上等な衣装に身を包む、色白で直毛の可愛らしい子だが、遠目にも分かるようなあざを、顔に負っている。 「あれは……怪我? どうしたのかしら」  3人はひそひそと話す。 「それがどうやら、親につけられたあざのようなんだ」 「親?」  怪訝な顔をするユウナギとナツヒ。  中央に近い(むら)を取りしきる高官の、4番めの妻の娘だが、母親も侍女も娘の怪我について特に話さない。ただ転んだだけだと。  しかし近所の者が、母親が娘をいたぶっているのを一度目にしたと言った。  それ以外は、高官の家のことなのでみな、口を閉ざしているようだ。  また彼らは、娘のふしぎな力を恐れているふしもある。  そこまで聞いてユウナギは、ずかずかと室内に入り少女に話しかけた。 「こんにちは。私はこの辺りに住む者、ユウナギです。あなたの名は?」 「コツバメ」 「あなたには、未来のみえるふしぎな力があると聞いたけど……そんなことより」  まだ入口の向こうからのぞいている男ふたりは、そんなことよりって言った!? と顔色を変えた。 「そのあざ、どうしたの?」 「転んだのじゃ」 「何をしてたらそんなふうに?」  そこで男ふたりも入室した。 「いやいやいや」 「まずふしぎな力の話聞きましょうよ!」  ナツヒほどではないが、アオジもユウナギにはわりと慣れているので気軽につっこむ。 「こんな小さい子に……」 「いや、こいつ前世の記憶があって、大人と同じ思考力会話力あるんだと」 「へぇー」  感心しながらユウナギは少女により近付いて、目を見て話し始めた。   「前世が高名な巫女ねぇ……いつの時代の?」 「さあ……記憶が上澄みのものだけでおぼろげじゃ。この地であることは確かじゃが」  少女は伏し目がちにして答える。  それは可愛らしい声に似つかわしくない口調であった。 「予知ができるんだっけ?」  少女はにやりとした。 「先日の地震で式堂に(まつ)られた3体の御神体のうち、1体が破損したじゃろう?」 「どうしてそれを?」  そもそも式堂に御神体が3体あることすら、一般の民の知るところではない。 「その破損部分をさらに剥がしてみると、かつての丞相(じょうしょう)の記録書きが隠されておる」  3人は息を飲んだ。 「役に立つ記述があるかは分からぬが、せっかく修復する機会じゃ、手に取ったら良い」 「アオジ」 「ああ」  うなずいたアオジは、すぐ丞相らの働く方へ向かった。  その背中を見て少女は 「これは予言ではないがな。ただ知っていることじゃ」 とつぶやいた。 「それは前世の記憶っていうこと? 予知はどうやって? 今の女王は神が憑依する形で予言するんだけど、あなたは?」 「私は何もしない」 「何も?」 「勘、というか。なんとなくそんな気がすると思って発言すると、それが実現する。まぁ夢にみることもあるがの」  ナツヒはなんだそりゃという顔だ。 「本当に、本物の巫女なのね!?」  ユウナギは彼女の小さな手を取った。 「私の代わりに次の女王になる!?」  そこで間髪入れず、声のだいぶ浮かれているユウナギをナツヒがバシッとはたく。 「なに言ってんだお前」 「だって本物……」 「女王がお前を選んだんだ。そんな簡単に替えられるか」  歴史上、ふしぎな力を持つ巫女は一時代にふたりと存在しない、というわけではないようだ。  しかし、女王に選ばれるのは、ただひとり。 「民はみんな私のこと知らないし……」  ナツヒに鋭く睨みつけられ、ユウナギはたじろいだが、いじけた声で続ける。 「女王の力への信頼にも関わることだけど……国のために……私がこの地位にいるよりは……」  その時、ふたりの間で退屈そうにしていた少女がこぼした。 「家に帰りたいのじゃ」 「そのあざは、母親につけられたものなんでしょ?」  ユウナギは彼女の顔をのぞきこむ。 「違う! 転んだだけじゃ!」 「いつどこで? 何回転んだの?」  そう問いかけながら少女の羽織を脱がせてみた。更なるあざが現れる。 「何度も土手とかで転んだのじゃ」  ぷいっと目を逸らし頑なになる少女に、ふたりは困り顔を見合わせた。  仕方がないので、まずは普段の暮らしぶりを聞くなど、雑談を繰り広げることに。
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