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兄トバリはそこの床几に腰かけ記録書を読みだした。
そのかたわらで4人はまた、雑談を始める。
さきほど少女は、父親の勤め先に遊びに行き、そこの長老に文字を習い書を読むのが日常だと話した。
長老は年のわりに賢すぎる彼女を気味悪がったりせず、可愛がってくれるので慕っていると言う。
しかし話を聞いていくと、同じ年頃の仲間はいないようだ。
中央の付近にもここらで働く人々の子どもたちが暮らしているので、少女に引き合わせたいとユウナギは思いつく。
ただ、高位高官の家族以外の、気軽に呼べそうな子どもたちというと、赤ん坊以外はみな働いている。
せっかくなら大勢の子どもたちを呼んで盛大に遊びたいが、子どもの面倒をみるなら、ある程度大人の目も必要だ。
「たまには定期祀り以外の催しを、強権使って開くか」
ナツヒがぼそっと言った。
本人たちはすっかり忘れているが、ここにいる者はみな、民にどうとでも命じられる立場にある。
「宴か?」
早速わくわくしだすアオジ。
「宴は大人のものだからさ。酒を出すのもいいが、あくまで子どもが主役の場に」
「そしたらコツバメに遊び相手ができる?」
ユウナギも気分が乗ってきた。
それでも強権を使うのは最後の手段としたい。
大人たちも駆りだすなら、みなが楽しめる集まりにしたい。大人はまぁ酒があれば、いつでもどこでも楽しいのだが。
「あぁ、俺、前から試してみたいことがあったんだ」
ナツヒが少しためらいがちに言った。
「なに急に?」
「こないだの地震で、今はどこも家屋の修繕が必要だろ」
つまり民はこのごろ普段よりも忙しいということ。状況としてはまさに不利。
「だからさ、邑人たちに、“手持ちの人足が倍になるかもしれない話があるんだけどさぁ”ってもちかける」
「なにそれどんな話?」
ユウナギは素直にたずねるが、それを小耳に挟んだ兄トバリは嫌な予感、といった顔。
「なにか競技の場を開いて、それに参加する各々が参加料として出せる人足を用意する。勝負に勝ったら用意した人数分、敗者から人足が借りられる、って決まりにするんだ」
「……?」
分かっていないユウナギのために、アオジとコツバメも口を出す。
「負けたら借りられないどころか、貸し出さなくてはいけないんだな」
「人足を用意してはじめて参加できるということじゃな。しかし参加料の人数は決まっておらず、多ければ多いほど、勝った時の配当も多くなると」
おかげでなんとか理解したユウナギ。
「えー? それで負けて必要な人足も失うこと考えたら、私だったら参加しないか、しても少なめにしか出さない」
「しかし多く出せば、その勝負事にかける気合いも変わってくるかもしれぬな」
「そうそう、お前意外と分かるな」
「ええ──??」
ユウナギはなんでコツバメ5歳児のくせに、と思った。
「こういう話を持ちかけた時、人はどれだけ乗ってくるか試してみたいんだよ」
「まぁ、それで乗り気な邑人が多ければ、それだけで集まる口実はできるわね。私たちには」
「「「「元手なしで」」」」
4人の声が揃った。
聞き耳を立てている兄は、若者たちの計画を見守る姿勢でいた。
その勝負事を何にするのかは尋ねたが。
「子どもでもやれて、準備に時間がかからず、順位付けが容易いやつ。まぁ山のまわりを1周して早い者順に勝ちでいいだろ」
ナツヒの単純な思考はとりあえず長所だ。
「いやそれなかなかキツいでしょ。10代男子が主な選手よ」
「兄上、その日取りを調整して布告を出してくれ。それで参加希望者が少なければ、話はお流れだ」
書をぱたっと閉じて、トバリは立ち上がった。
「やれるだけやってみよう。ここから近い7つの邑でいいか?」
「コツバメの邑も入れてっ」
「もちろんです」
やはりユウナギに甘いトバリだ。穏やかな微笑みを投げかけ、そこを後にする。
それが決定するまでの間、他にどんな催しなら子どもが大勢で遊べるか、各々考えることにした。
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