カレーのきっかけ

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フード付きの部屋着に着替えた樹と、ふたり向き合ってカレーを食す。 スパイスカレーを食べるときは、カレーに集中して、五感のすべてを使って味わうように。レシピ本に書かれた文言を沙織は忠実に信じて、樹にも言い含めていた。 「美味いねえ。沙織はどんどんカレーが上手になっていくねえ」  樹は一口食べて、嬉しそうに感想を言う。 「うん。今日のは玉ねぎの炒めが上手くいったね。甘みが出て美味しい。今度はヨーグルトの代わりにココナッツミルクにしてみようかな。好きでしょ?」 「いいね。ココナッツミルクのカレー、大好き」  樹は満面の笑みを浮かべる。 「掴みますねえ、胃袋」  樹が言い 「掴めてますかね、胃袋」  と、沙織が応える。  食べ終わって、樹は口元をティッシュで拭うと 「もはや、沙織にとってカレー作りは生きがいでしょ」  などと勝手なことを言って満足気にしている。 「『生きがい』?」  沙織は眉をひそめる。 生きがい、っていうのは一体どういうもののことを言うのだろう。それはきっと、スパイスカレーにおける「塩」のようなもの。それによって味が決まるもの。とってもとっても大事な、自身の核心に迫るようなもの。 そんなものを樹に適当に決められたくなんてないし、奥が深いスパイスカレーに対しても、駆け出しの沙織の生きがいなどと言ってしまっては失礼な気がした。
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