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彼女はにっこりと笑った。はきはきした元気な受け答えを聞き、なんとなくこの子は合格しそうだな、と思った。
「そうかい。良かったね」
「それで……あの、さっきちゃんとお礼が言えなかったので……」
そこで彼女はぺこっと礼をする。
「係の方に遅刻の理由を説明していただいて、本当にありがとうございました。言い出しづらかったので、あそこで助け船を出して下さらなければ、私は最終面接を受けることが出来ませんでした。感謝してもしきれません。ありがとうございました」
「あはは……そんな大げさな」
「いいえ。貴方は私の恩人です! 助けていただいて本当に嬉しかったんです。いくらお礼を言っても足りません。あと、私の志望している企業には、こんなに優しくて素敵な先輩が働いているんだ、ってことを、体験することが出来きて、本当に良かったです。絶対に受かりたい、受かってみせる、って強いパワーが湧いてきたんです! その情熱を面接官にぶつけることが出来ました。そのおかげか、始めて手応えを感じたんです」
「そうかい? きみのように真面目な子なら、もう既にいくつか内定もらっているでしょ」
冷泉の言葉に、彼女は悲しげに笑い、首を横に振る。
「まさか……。私、実はとっても緊張しいなんです。だから面接では上がってしまって、いつも練習の成果をだせなくて……。連敗続きで、自信を失っていたんです。でも今回、絶対に受かるぞ、あの優しい先輩行員さん達と一緒にお仕事するんだ! って、初めて攻める気持ちが湧いてきて、堂々と受け答えできました。自分がちょっと成長出来た気がしました。だから貴方は……本当に私の恩人なんです!」
彼女は大きな黒飴の瞳をきらきらさせて、冷泉を見上げた。頬は薔薇色に染まり、嬉しくてしかたがない、心から感謝している、という素直な表情である。
その瞳には、自分が志望している企業で立派に社会人として働いている年上の男に対しての、憧れや尊敬の念も含まれているように感じた。
(うっ)
――かわいい。この子、めちゃくちゃかわいい
瞬間冷泉の胸はドキン! と高鳴った。ハートに矢が刺さったようである。
(な、なにこれ)
なぜか呼吸が苦しくなり、心臓がドクドクと脈打ち、体中に血が巡ってくる。
普段から甘い顔立ちの冷泉だが、今やそのブランデー色の瞳は見開かれ、頬は真っ赤に上気し、唇は甘酸っぱい衝撃にわなわなと震えている。
(ど、どうした僕)
冷泉はつい胸の辺りを手で押さえてしまった。ずるずると後ずさる。いきなり挙動不審になったことを悟られまいとしたのだ。
自分より頭一つ分小さい彼女が、急に愛おしく思える。先程までただの小娘としか認識していなかったのに、突然魅力的な女性として冷泉の心を射貫いていくる。
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