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指ハートして
「僕たち息ぴったりだね。もう新婚みたい」
「あはは、そうですね」
洗い物が済むと、冷泉は春香のこめかみにチュッと軽いキスをする。
「わっ……」
「手伝ってくれてありがとう。助かったよ」
と優しく髪を撫でてくれた。長い指に毛先をすかれて、春香はぽっと頬を熱くする。
(んもう冷泉さんったら、甘いんだから……)
けれどこういうスキンシップは嫌いではない。むしろ、大歓迎である。
テーブルが綺麗になると、二人はソファへ移動した。ローテーブルに春香が買ってきたホールケーキが置かれる。大好きなチョコレートケーキである。一ヶ月記念日を祝うチョコプレートを見て、冷泉は喜んでいた。
「おっ、美味しそう。それに、ちゃんと〈一ヶ月記念日おめでとう〉って書いてある。すごい」
「これで良かったですか? 冷泉さん、チョコ好きですか?」
「僕は春香が好きなものが好きだよ。だから大丈夫。――あ、ちょっと待ってて」
冷泉は一旦キッチンに戻ると、数字の1の形をしたキャンドルを持ってきて、ケーキにそっと差した。それから準備していたマッチで火をつけ、電気を消す。
「うわあ……綺麗」
春香はオレンジの火がゆらゆら揺れるケーキに目をきらめかせた。
「さあ、吹き消して」
冷泉はスマホを構えている。どうやら動画を撮るらしい。
「えーっ……恥ずかしいですよぅ」
「いいから、いいから。春香が照れてる姿を撮りたいんだよ」
「ええっ……ひどいなあ、もう。じゃあ……失礼します。――一ヶ月記念日、おめでとうございます~」
ふーっと息を吹きかけると、ぱっとろうそくの火が消えた。白い煙が一筋立ち上り、ほんのりと焦げた匂いがする。冷泉は「おおーっ」と子供みたいなリアクションをした。これではまるで誕生日のパーティーである。
「春香ー、こっち見て笑って」
「こ、こうですか?」
春香は照れながら笑みを作り、手を振る。
「そうそう。うわあ、かわいい! 指ハートもして~」
「はい、これでいいですか?」
春香は親指と人差し指をクロスして、指でハートを作った。
「うわー! かわいい、超かわいい。ホントかわいい。僕の春香は最高だっ」
「んもう、大げさですってば。冷泉さんもこっちに来て、早く食べましょうよー」
「りょうかい。すごい動画が撮れたぞ。結婚式で流そう。僕のコレクションがまた豊かになったな」
彼はうきうきと目を輝かせていた。
冷泉が撮影を終了し、電気をつけた。明るくなったリビングで、春香は頬を桃色に染めて、はにかんでいる。
「えへへ、ちょっと楽しかったです。大人になってから、こういうのしてもらったこと、ないので。冷泉さん、ありがとうございました」
「ほんと? じゃあ二ヶ月記念日も、その次もやろう。もちろん春香の誕生日も。四月八日だよね」
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