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ストーキング対象者のプロフィール
「あ、そうです。……あれ、誕生日教えましたっけ?」
春香は首を傾げた。
「ストーキング対象者のプロフィールは暗記してますよ」
冷泉がにっこり笑って告げる。
「すと……?」
「いや、こっちの話だよ、ふふふふ……。さ、食べようか」
冷泉が準備していたナイフで綺麗にケーキを切り分けた。チョコプレートは丸々春香の皿に乗る。
「さ、どうぞ、春香ちゃん。改めて、一ヶ月記念日おめでとう。これからも末永くよろしくね。――はい、あ~ん」
冷泉は一口サイズにフォークで切ったケーキを、春香の差し出した。
「え、ええ~。それやるんですかあ?」
春香はこってこての共同作業に、照れ笑いをした。でも内心嬉しいものである。
「もちろん。恋人同士なんだから。さあ、食べて」
「じゃ、じゃあ……いただきます。一ヶ月おめでとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします。では……」
春香はあーんと口を開け、ケーキをぱくっと食べた。
「ん~! 美味しいです。スポンジがしっとりふわふわで、チョコクリームの甘さもちょうど良い」
春香が瞳を糸にした。頬に手を当て、舌鼓を打っている。上に乗った苺の甘酸っぱさが、濃厚なチョコクリームを軽くしてくれて、食べやすい。いくらでもお腹に入ってしまいそうだ。
「あはは、かわいい。今の春香ちゃんかわいすぎ。さ、次どうぞ」
冷泉はとても嬉しそうな顔で、春香にあーんをし続けた。
それから二人は彼が淹れた美味しいカフェオレを飲みながら、並んでソファに座り、サブスクで契約したネット番組で、ラブロマンス映画を見た。少し古いが名作で、王道のシンデレラストーリーである。
雰囲気を出すためか、冷泉は照明を少し暗くした。
「きゃ、ヒロインの女優さん、若いー。かわいい」
「そう? 春香の方がかわいいけどな」
「あっ、あのアンティークの指輪かわいい。オシャレー」
「じゃあ今度買ってあげるよ」
「そんな、いいですって。そういうつもりで言ったんじゃないですから」
「えー。だって僕が買ってあげたいんだもん。だめ?」
「んもう……その子犬みたいな目、禁止です」
「やったぁ。後でブランド調べなくっちゃ」
冷泉と春香は、指を絡ませて手を繋いでいる。ひんやりとした彼のてのひらは気持ちよい。一緒にいると、ドキドキすることもたくさんあるが、こうして密着していると安心感の方が大きい。
(冷泉さんとくっついているの、好きだな……)
仕事の疲れと、満腹感と、安堵で、春香は少しうとうとした。こてん、とつい頭が冷泉の肩に乗ってしまう。
「あっ、すいませ……」
慌てて起き上がろうとすると、冷泉がこちらを見詰めて優しげに微笑んだ。枯れ葉色の瞳がとろりと溶ける。
「いいよ。そのままで」
「でも、重くないですか?」
「全然。むしろ嬉しい」
冷泉は春香の頭にそっと手を添え、前髪にキスをした。彼の甘いトワレがほんのりと香る。春香はドキッと心臓を跳ねさせた。
(わっ……近い)
春香は緊張に身体を強ばらせた。
「春香……」
冷泉が美しいテノールで名前を呼んでくる。かすれた低い声が色っぽい。熱い吐息を感じ、ぞくりと肌が粟立った。
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