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今夜はどうすればいいんだろう
(きゃっ)
春香はゆでだこのように顔を赤くして、つい冷泉の手から逃れて、ガバッと立ち上がっていた。
「春香?」
「す、すすす、すみません! お、お皿洗ってきますっ」
そそくさと皿とカップを持ち、キッチンへ逃げ込んだ。流しに置くと、火照った頬を両手で押さえ、カーッと赤くなる。
(い、今の雰囲気って、やっぱりそういうことだよね?)
――エッチしよう、ってことだよね?
――きゃー!
心臓がバクバクとうるさい。呼吸も自然と浅くなっていた。
付き合って一ヶ月が経つが、春香と冷泉は、まだ一度しかエッチをしていない。仕事が忙しかったり、互いに用事が入ったり、春香が疲れていたりと、タイミングが合わなかったのだ。だから、もし今夜愛の営みをするのであれば、二回目になる。
(どうしよう、どうしよう。前回は流れに乗れば良かったけど、今夜はどうすればいいんだろう……?)
恋人達の仲よし行為に不慣れな春香は、こういう時、どう振る舞ってよいか分からない。
(メイクを直した方がいいのかな? 寝室に移動するべき? あっ、シャワーまだだったよ! あと今日の下着、何色だっけ? えーと、えーと……)
――あ、そうだ、下着はピンク……!
春香がひとりあわあわしながら、必死に考えていると、いつの間にか背後に冷泉が立っていた。
「なんで逃げるの。春香」
後ろからそっと抱き込まれ、腰を引き寄せられた。背中に厚い胸板と体温を感じ、春香はどきっと胸を高鳴らせる。
「れ、冷泉さん……」
首を捻って振り返ると、間近に迫った彼と目が合った。垂れた瞳が薄暗い中できらりと光っている。その雄{おす}を感じさせる強い輝きに、春香は捕らわれ、動けなくなってしまった。
「セックスするの、怖い?」
単調直入に聞かれて、春香はビクッと肩を跳ねさせる。同時にセックスという露骨な単語を出されて、頬が熱くなった。
「こ、怖いというか……」
「なに? 正直に言ってごらん。全部受け止めてあげるから」
耳元でそっと囁かれると、ぞくんと肌が粟立った。生暖かい吐息に、自然と身体の奥に火が灯る。
「ど、どうしていいか分からないんです……。私、その慣れてなくて……」
「うん、それで?」
冷泉ははむはむと春香の小さな耳の殻を刺激する。それから、柔らかい耳たぶを上下の唇ではさみ、感触を味わうように、むにむにと甘噛みした。
(わ、耳くすぐったい……)
春香はもじもじと身をくねらせた。勝手に太股の内側をこすりあわせてしまう。
「んっ……。こういう時、どう振る舞うのが……せ、正解なのか、分からなくて……っ、ふ、んっ……」
「正解とか、別に無いんじゃないかなあ。お互いがやりたいようにやれば、それでいいと思うよ」
「で、でも……っ」
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