10.王都での生活

4/6
前へ
/124ページ
次へ
「サラ、こんにちは!」 「ちわ!」  サラが店に顔を出すと、アメリーとカイルが挨拶をする。二人はもうすっかりサラとは馴染みになっている。  サラは子爵令嬢だけれど、ここでは内緒にしている。ジュール家から私についてきたことは明かしているけれど、メイドとしてついてきたのだと説明していた。  メイドなら、アメリーやカイルと身分は違わない。  ここでは平民として振舞った方がいいだろうということで、そういうことにしたのだ。 「こんにちは、アメリー、カイル。アオ、ここは任せて」 「ありがとう、サラ!」  なので、私に対しても呼び捨てにしてもらっている。そして、タメ口。  私としては、今の方が気安くて好きだ。  私たちは店を一旦サラに任せ、奥にある工房に向かった。  カイルはともかく、アメリーは職人じゃないので、本来なら工房には通さない。でも、アメリーだけは特別だ。  私はカイルから渡された袋の中から、慎重に屑石を外に出していく。  赤、青、緑、黄色にピンク、黒にオレンジもある。それに、大きさや厚みも、ちょうど私がほしいなと思っていたものだった。 「素敵! これだけいろいろな色があれば、刺繍の模様も工夫できそう!」  私が感激してカイルを見ると、彼は嬉しそうに笑っていた。  カイルはサバサバしてて豪快だけれど、人がどんなものを求めているのかを察する力が高いと思う。  私がカイルから仕入れている宝石だって、「こういうのがあればいいな」とざっくり伝えるだけでそれが叶ってしまう。きっと、他の取引先からも重宝されているだろう。 「アオ、これをどんな風に使うの?」  アメリーが目をキラキラさせながら聞いてくる。  私はポケットから白いハンカチを出し、その上にいくつかの屑石を置いていった。 「こんな風に石を縫い付けて、葉や茎の部分を刺繍で表現したら花模様ができるし、同じ要領で鳥とか動物とか、単純にただの模様を描くこともできるわ。で、石と刺繍糸に力を付与するの。これだと、アクセサリーよりももっと気軽に持てると思わない?」 「思う!」  アメリーが力いっぱい同意してくれた。でも、カイルはちょっと眉を寄せている。……あれ? ダメかな? 「カイルは賛成できない?」 「いや、いい考えだと思うけど、「リトス」はアクセサリーの店だろ? それなのに、ハンカチを置くのか?」  なるほど、それもそうか。  でも、うちは高級志向の店じゃないし、アクセサリー以外のものがあっても面白いんじゃないだろうか。  そう言うと、カイルは「アオの店なんだから、アオがよければいいんじゃないか」と言ってくれた。 「ありがとう、カイル! えっと……それじゃ、この石のお金を……」 「いいって。アオにやる」 「ダメだよ」 「じゃあ、まずは第一弾としてやってみろよ。お試しだ。それが上手くいったら、次からはもらう」  なんて気前のいい……!  ここまで言ってくれるのだから、その好意に甘えさせてもらおう。 「それじゃ、そうさせてもらうね!」 「アオ、私、絶対そのハンカチを買うわ! 皆にも声をかけてみる。他の人たちも欲しがると思うわ」 「ありがとう、アメリー!」  そうなると、いつものアクセサリー作りにプラスして、刺繍ハンカチを作る時間も確保しないと。うわぁ、忙しくなりそう!  気合を入れていると、サラが私を呼びに来た。 「アオ、店に来てもらえる?」 「どうしたの? 何かあった?」  カイルから貰った屑石を袋に戻し、工房の作業台にしまう。それから、私たちは店に戻った。すると── 「アオ」 「オスカー!」  場違いなほどの高貴さを漂わせながら、オスカーが店の入口に立っていたのだった。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!

638人が本棚に入れています
本棚に追加