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「サラ、こんにちは!」
「ちわ!」
サラが店に顔を出すと、アメリーとカイルが挨拶をする。二人はもうすっかりサラとは馴染みになっている。
サラは子爵令嬢だけれど、ここでは内緒にしている。ジュール家から私についてきたことは明かしているけれど、メイドとしてついてきたのだと説明していた。
メイドなら、アメリーやカイルと身分は違わない。
ここでは平民として振舞った方がいいだろうということで、そういうことにしたのだ。
「こんにちは、アメリー、カイル。アオ、ここは任せて」
「ありがとう、サラ!」
なので、私に対しても呼び捨てにしてもらっている。そして、タメ口。
私としては、今の方が気安くて好きだ。
私たちは店を一旦サラに任せ、奥にある工房に向かった。
カイルはともかく、アメリーは職人じゃないので、本来なら工房には通さない。でも、アメリーだけは特別だ。
私はカイルから渡された袋の中から、慎重に屑石を外に出していく。
赤、青、緑、黄色にピンク、黒にオレンジもある。それに、大きさや厚みも、ちょうど私がほしいなと思っていたものだった。
「素敵! これだけいろいろな色があれば、刺繍の模様も工夫できそう!」
私が感激してカイルを見ると、彼は嬉しそうに笑っていた。
カイルはサバサバしてて豪快だけれど、人がどんなものを求めているのかを察する力が高いと思う。
私がカイルから仕入れている宝石だって、「こういうのがあればいいな」とざっくり伝えるだけでそれが叶ってしまう。きっと、他の取引先からも重宝されているだろう。
「アオ、これをどんな風に使うの?」
アメリーが目をキラキラさせながら聞いてくる。
私はポケットから白いハンカチを出し、その上にいくつかの屑石を置いていった。
「こんな風に石を縫い付けて、葉や茎の部分を刺繍で表現したら花模様ができるし、同じ要領で鳥とか動物とか、単純にただの模様を描くこともできるわ。で、石と刺繍糸に力を付与するの。これだと、アクセサリーよりももっと気軽に持てると思わない?」
「思う!」
アメリーが力いっぱい同意してくれた。でも、カイルはちょっと眉を寄せている。……あれ? ダメかな?
「カイルは賛成できない?」
「いや、いい考えだと思うけど、「リトス」はアクセサリーの店だろ? それなのに、ハンカチを置くのか?」
なるほど、それもそうか。
でも、うちは高級志向の店じゃないし、アクセサリー以外のものがあっても面白いんじゃないだろうか。
そう言うと、カイルは「アオの店なんだから、アオがよければいいんじゃないか」と言ってくれた。
「ありがとう、カイル! えっと……それじゃ、この石のお金を……」
「いいって。アオにやる」
「ダメだよ」
「じゃあ、まずは第一弾としてやってみろよ。お試しだ。それが上手くいったら、次からはもらう」
なんて気前のいい……!
ここまで言ってくれるのだから、その好意に甘えさせてもらおう。
「それじゃ、そうさせてもらうね!」
「アオ、私、絶対そのハンカチを買うわ! 皆にも声をかけてみる。他の人たちも欲しがると思うわ」
「ありがとう、アメリー!」
そうなると、いつものアクセサリー作りにプラスして、刺繍ハンカチを作る時間も確保しないと。うわぁ、忙しくなりそう!
気合を入れていると、サラが私を呼びに来た。
「アオ、店に来てもらえる?」
「どうしたの? 何かあった?」
カイルから貰った屑石を袋に戻し、工房の作業台にしまう。それから、私たちは店に戻った。すると──
「アオ」
「オスカー!」
場違いなほどの高貴さを漂わせながら、オスカーが店の入口に立っていたのだった。
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