05.王家からの招待

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 なるほど、そういうことだったのか。  私が間違いである以上、真の聖女が召喚されていたという話には、信憑性がある。そして、同時に召喚されていたのなら、闇雨もまた彼女がやませた可能性が高い。  だって、私は間違いなのだから。 「そうなのね。間違いの私が闇雨をやませられるわけないし、おかしいなぁと思っていたの」 「私は、闇雨をやませたのはお姉様だと思います!」 「え、でも……」 「お姉様は、最上位魔法師のフィル様の召喚に呼応され、その腕の中に光とともに現れたと聞いています。そしてその瞬間、闇雨はあがったと」 「でも、もう一人の召喚者も同時だったのなら……」 「辺境の地に召喚されるなんて、おかしいです。フィル様がそんなミスをされるとは思えません」  いや、私は間違いで召喚されたんだけどな……。  と思いつつも、私を信じてくれているルイーゼには強く言えない。  ルイーゼだって、私が判定石に反応せず、聖女ではないと言われたことについては知っているはずなのに。不思議だ。  それより、皆がもう一人の召喚者を真の聖女様と言うには、何か根拠があるはず。私はそれを尋ねてみた。すると、 「判定石が、反応したそうです……」  と、今にも消え入りそうな声で、ルイーゼが呟く。  どうしてルイーゼがここまで残念そうにするのかわからないけれど、判定石が反応したなら、その彼女が聖女様で決まりだ。  私はやっぱり、間違いで召喚された間違い聖女。  召喚された当初はショックでたまらなかったけれど、今ではかなり吹っ切れている。いくら嘆き悲しんだところで、時は戻らない。  それに、面倒を見てくれているジュール家の人たちは皆、私にとてもよくしてくれる。  不幸中の幸いとはよく言ったもので、今の私はまさにそれだ。間違いで召喚されてしまったけれど、そんな中でも私はラッキーだった。  真の聖女であるもう一人の召喚者は、いきなり辺境の地に飛ばされたのだから、さぞ心細かったことだろう。……気の毒すぎる。 「でも! 判定石の反応はなくても、アオお姉様は知っていたわけでもなく習ったわけでもないのに、ものを思いどおりに変化させたり力を付与することができるのですよ? クラフト職人の力とは、また違う能力です。お姉様だけの特別な力……。私は、それは「聖女様の力」だと思うのです!」  ルイーゼはそう力説するけれど、私はいまいちピンとこない。  だって、もう一人の召喚者も、私とは違う特別な力を持っている可能性は高い。  今はまだ気付かれていないのかもしれないけれど、きっと何かあるはず。間違いの私でさえ、持っていたのだから。  その時── 「ルイーゼ、アオはそこにいるか?」 「お兄様!」  ノックと同時に声がした。  オスカーだとわかるやいなや、ルイーゼはぱぁっと嬉しそうに微笑む。  マリンと私は互いに顔を見合わせ、小さく笑う。マリンは移動し、部屋の扉を静かに開けた。 「アオ様はこちらにいらっしゃいます」 「アオ、話があるんだが、いいか?」 「話……?」  なんだろうと思って椅子から立ち上がると、ルイーゼも一緒に立ち上がる。そして、おずおずと窺うように、私とオスカーに言った。 「私は、聞いてはいけないお話ですか?」  淋しそうなルイーゼの表情に、後ろ髪を引かれる。  ルイーゼも一緒じゃ、だめ?  そんな気持ちでオスカーを見ると、オスカーは吐息し、仕方ないといったように肩を竦める。 「大切な話ではあるが、内密というわけではない。アオがいいなら、ここで話そう」 「いいです」 「即答か」 「ありがとうございます! お兄様! アオお姉様!」  花がほころぶような笑みを見せるルイーゼに、私は目を細める。  微笑ましいという気持ちはもちろんだけれど、それだけじゃない。いや、こっちがメイン。  ……その笑顔が愛らしすぎて、目が潰れそうですっ!
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