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元のワンピースに着替え、私とオスカーは王都を散策する。
着てきたワンピースもちょっとしたお出かけ用の上品なものだったので、ヘアメイクはそのままだ。
散策といっても、ただぶらぶら歩いているのではなく、私たちはとある場所に向かって歩いていた。
今日のもう一つの目的、王都に与えられた私の家を見るために。
周辺に何があるのかもいろいろ把握したかったし、どんな人たちがいるのかも、実際に歩いてみて体感したかった。
だから、こうやってのんびり歩いているわけだけれど……。
さっきから、注目されまくりなんですが!
いや、少し考えればわかることだった。
見目麗しすぎるオスカーが歩いていたら、そりゃ注目するに決まってる!
老若男女問わず、皆がオスカーに見惚れていた。
中には貴族の令嬢もいて、オスカーに話しかけたそうにじっと熱い視線を寄越すのだけど、オスカーは全く気にしていない。絶対気付いているはずなのに、気付いていない振りをしている。
オスカーは公爵家の令息なので、それ以下の身分の人が、自分から話しかけることはできないのだそうだ。話をするなら、オスカーから声をかけられる必要がある。
……貴族って、ちょっと面倒だ。
本来なら、私なんてオスカーと話をすることや、こんな風に一緒に歩くことも許されない。異世界からやって来たとはいえ、聖女じゃないからただの平民だし。
ジュール家で保護してもらっている身であり、彼らがよくしてくれるから、敬語もなにもなく普通に話せているだけ。
そんな事情を知らない人からすれば、私のやっていることは不敬だらけだろう。
……まぁ、私の事情を知らない人の方が珍しい、らしいけれど。
あ、今気付いたけど、周りの人たちがジロジロこっちを見てるのは、私のせいもほんの少しあるかもしれない。
「間違い聖女はこいつか!」みたいな感じで。
その時、美しく着飾った令嬢が、私たちが通り過ぎるまさにそのタイミングで、バランスを崩し、倒れそうになった。
「あ!」
危ない、と叫びそうになったけれど、その前に令嬢はオスカーに抱えられていた。オスカーにもたれかかる令嬢は、申し訳なさそうに小さく頭を下げる。
「お怪我はありませんか?」
「はい。助けていただき、ありがとうございます。オスカー様」
彼女は顔を上げ、儚げに微笑む。
煌く金の髪、エメラルドのような美しい緑の瞳、まるで陶器のような肌。これぞお姫様! というような美女だ。
彼女は潤んだ瞳でオスカーを見つめ続ける。その頬は、薔薇色に染まっていた。
あー……この令嬢、間違いなくオスカーに気がある。ううん、気があるどころじゃない。すっごく好き、だ。
「オスカー様には、助けられてばかりですわね」
「……体調のよくない時は、外出されない方がよろしいかと」
いやいやいや、その返しはどうなの?
「オスカー様をお見かけすると、つい嬉しくて舞い上がってしまうのですわ。そして、いつもオスカー様にご迷惑をおかけしてしまう私……。本当に申し訳ございません。ですが、こうして王都でお会いするのは、もう何度目でしょうか。一度は偶然かもしれませんが、二度目、三度目となりますと、もうこれは運命に違いありませんわ。私、そう思っておりますの」
え、ちょっと待って。もう何度もこうやってオスカーの前で倒れちゃってるの、この人? それはちょっと怪しすぎない?
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