06.王都にお出かけ

5/5
前へ
/124ページ
次へ
「申し訳ないが、先を急いでいるのでこちらで失礼する」 「オスカー様! そのっ……お隣にいらっしゃる方は、異世界からいらっしゃった……?」  ずっとその存在を無視していただろうに、オスカーがさっさと立ち去ろうとするや、私のことを引っ張り出すなんて。  ダシに使われてみたいで、ちょっとモヤってしまう。  でも、私は平民で、彼女は貴族のお嬢様。ここはおとなしく挨拶をしておこう。  そう思い、私は彼女に対して深く頭を下げた。 「はじめまして。ジュール公爵家でお世話になっております、アオと申します」 「そう。あなたがアオさんなのですね。私は……」 「大変申し訳ございません。早急に行かねばならないところがありますので、これで」 「え、ちょっと……!」  向こうが名乗ろうとするのを遮るかのように、オスカーは私の手を引いて走り出してしまった。  え? こんなのあり? 許されるの? オスカー、礼儀知らずとか言われちゃったりしない??  チラリと振り返ると、あの美しいお嬢様が表情を歪め、こちらを見ていた。その顔は、さっきとはえらく違う。  ヒッ! こ、怖いっ!  彼女の姿が見えなくなると、オスカーは徐々にスピードを落としていった。  オスカーは私に合わせて走ってくれたんだろうけど、もう少しでへばるところだった……。ぜーぜー。 「大丈夫か? アオ」 「急に……走り……出す……か……ら……」 「悪い。彼女は粘着質で、いつも対応に苦慮しているんだ。できるなら、アオは関わらない方がいいと思って逃げた」  粘着質……。ということは、何度も王都で会ったというのは、もしかして彼女の自演? え? ストーカー!?  王都で会うのは、向こうがわざとそうしているのかと尋ねると、オスカーは苦々しい顔で肯定した。  ヤバ! 怖すぎるっ!  こっちの世界でも、やっぱりそういう人はいるんだ! 「最初はアオを無視していたくせに、俺が話を切り上げようとした途端、アオを引き合いに出してきた。おおかた、アオを利用しようとしたんだろう」 「うわぁ……」 「彼女は侯爵家の令嬢だ。無碍にするわけにもいかないので多少の相手はするが、アオは関わらない方がいい」  さっきのオスカー、あれは無碍ではないんだろうか。  でも、一応は倒れる彼女を支えてあげたわけだし、少しの会話はしたし、とりあえずは紳士の対応だった……のかな? よくわからないけど。  それにしても、美形すぎるのも大変だ。  おそらくだけれど、彼女ほどではなくても、オスカーに恋焦がれて行動がエスカレートするお嬢様はきっと多い。 「ここだ、アオ」 「え?」  オスカーはいきなり立ち止まり、目の前にある建物を指差す。  そこには、私の世界でいう雑貨屋さんのような、可愛らしい建物が鎮座していた。 「ここって?」 「ここが、王家が用意した、アオのための家だ」  家? 家というより、店のような気がするけど? 「一階は店として使えるようにしてあるらしい。アオがクラフト職人の才があると知って、店を構えることができるように、ということだ」 「なるほど! ……中は見れるのかな?」 「あぁ。行こう」  オスカーの後に続き、私はその建物に近づいていく。  ここが……私の店、そして家になるのかぁ。  私は、わくわくしながらその建物の中に入っていった。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!

639人が本棚に入れています
本棚に追加