07.新たなクラフト職人の誕生

1/5
前へ
/124ページ
次へ

07.新たなクラフト職人の誕生

 王都に用意された私の店、兼、家は、とても暮らしやすそうだった。おまけに外観が可愛らしくて、気持ちが弾んだ。  一階が店で、二階が居住区になっていて、キッチンやトイレなども二階にあった。お風呂も完備しているところはさすがだ。  クローゼットは備え付けで、ちょっとした作業もできるようなデスクもある。ベッドも用意されていて、すぐにでも生活できそうだった。  一階は店舗だけれど、奥には広々とした部屋があった。ここでアクセサリーを作ればいいかな、なんて想像し、ニヤニヤしてしまう。  その後、ジュール家の皆さんや侍女やメイドといった使用人たちにもお土産を買いこんで、私たちは戻ってきた。  お土産は皆に喜んでもらえ、今日は楽しかったなぁなんてほわほわした気持ちでいると、オスカーが不意に私の側まで来て、小声で囁いて行った。 「あそこに住まなければいけないわけじゃない。店をやるにしても、ここから通ったっていいんだ」  私は目を丸くする。  だって、王都に家が与えられたのは、私が一人立ちするために必要だからじゃ……? 間違いで召喚してしまったお詫びもあるだろうけど。  ここから通うなんていう考えは私には一切なかったものだから、驚いてしまった。  オスカー、私が一人で生活するなんて無理だって思ってる? 何もできないって?  ここでは、周りの人たちが何もかもやってくれるから、何もできないと思われても仕方がないのかもしれない。  でも、私だって一応成人女性だ。得意というわけではないけれど、ちょっとした料理もできるし、掃除や洗濯だってできる。そりゃ、ここには元の世界みたいに掃除機や洗濯機なんてないけれど。  私はここで、ただぼんやり生活していたわけじゃない。メイドの皆の仕事ぶりも観察してきた。だからきっと……できるはず。  ジュール家から通ってもいいと言ってくれるのは、ありがたいことなのかもしれない。でも、ちゃんと一人でやっていけるって信頼してほしい。  ……そんな姿勢を見せてこなかった私も悪いのだけど、そう思ってしまうのだ。  これからは、一人でやっていけるということも見せていかなきゃと、私は決意した。  そして──今日は、いよいよ王宮へ赴く日。  朝からサラに念入りにあちこちを磨かれ、手入れされ、オスカーが買ってくれたワンピースに袖を通す。 「とてもよくお似合いです!」 「ありがとう、サラ」 「腕が鳴ります! あぁ、どんな髪型にしましょうか。お化粧は……」  サラはとても嬉しそうに、あれこれ考えながら手を動かし始める。  サラの手は魔法のようで、触れたところから瞬く間に変化していくのだ。  「エーデル」でも使った化粧品を駆使し、私はどんどん変身していく。メイクってすごいと思う。鏡に映る私は、気品ある令嬢らしくなっているのだから。  器用に編み込まれた髪に上品な髪飾りがつけられた後、サラが鏡越しに笑みを向けてきた。 「仕上げは、イヤリングとネックレスですね。どちらも本当に美しいですわ」 「うん。こんなに高価なものを買ってもらってしまって、申し訳ない気もするけど」 「何をおっしゃいますやら! アオ様のために、オスカー様が選んでくださったものでしょう? 申し訳ないなんてことは絶対にございません。……それにしても、このサファイアは素晴らしい一品ですわ。この深い青の美しいこと! まるでオスカー様の瞳のよう」 「え!? あ、あの……」  ブリジットさんから言われたことを思い出し、頬が熱くなる。  サラから見ても、このサファイアはオスカーの瞳の色を連想するんだ……。  ということは、これから会う王族の方々にも、そう思われる可能性があるのでは?  いいのかなぁと心配になりつつも、サラにイヤリングとネックレスをつけてもらうと、気持ちが引き締まった。  オスカーが、今日の日のために用意してくれたものだからだろうか。  特にネックレスからは、力をもらえている気がする。  これも……オスカーの瞳と同じ色だから、オスカー効果? なのかな。  部屋を出ると、ジュール公爵と奥様、ルイーゼが待ち構えており、皆は顔をほころばせ、褒めに褒めてくれた。  嬉しいけれど、恥ずかしい。  顔を赤くして照れながら、ふと玄関に目を遣ると、そこには王族に謁見するに相応しい礼服に身を包んだオスカーが、私をじっと見上げていた。  凛とした声が、響く。 「行くぞ、アオ」 「……はい!」  私はジュール公爵にエスコートされ、玄関へ向かう。そして、オスカーに引き渡された。 「オスカー、アオさんを頼むぞ」 「もちろんです」  二人は顔を見合わせ、頷きあう。  それを見ると少し緊張してきたけれど、オスカーが付き添ってくれるのだから、きっと大丈夫。私は私のできることをすればいいだけ。オスカーが繰り返しそう言ってくれたのだし、私はそれを信じればいい。  私は皆に向かって大きく頷き、できるだけ上品さを損なわないよう気をつけながら、覚えたばかりのカーテシーを披露し、この場にいる全員に笑顔を見せた。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!

639人が本棚に入れています
本棚に追加