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王宮の中に入ってすぐだというのに、私の精神はすでに疲れ果てていた。
とにかく大きくて、煌びやかで、豪奢で、とんでもなく圧倒されてしまったのだ。
私の場違い感がすごい。浮きに浮いている。もう逃げたくなってきた。
「大丈夫だ、アオ」
小声で励ましてくれるオスカーには申し訳ないけれど、本当に大丈夫なんだろうかと、不安は募る。
こんなものすごい場所で、王様や王妃様が見ている前で、アクセサリーなんて作れる? いや、無理でしょう……。
泣きたくなっている私に、更に追い打ちをかけるようにオスカーが言った。
「王太子と第二王子も見に来るらしいぞ」
「嘘でしょ……」
なんで王子様まで!
そして、ここで追い打ちかけるってどうなの!?
私が恨めしそうにオスカーを見上げると、彼は僅かに口角を上げた。そして、エスコートしている私の手を軽く握る。
驚いて、何度もパチパチとまばたきする私に、オスカーは表情を和らげた。
「何かあっても俺が何とかする。アオはアクセサリーを作ることだけに集中すればいい」
「……うん」
オスカーが何とかすると言ったら、絶対に何とかしてくれる気がする。
まだ出会ってそれほど時間は経っていないけれど、それだけの信頼があった。
オスカーは、この世界に召喚されて、右も左もわからずに心細い思いをしていた私を助けてくれた人。王様に意見し、私をジュール家に連れてきてくれた。
この国のトップにも発言権のあるオスカーなら、私が多少何かやらかしてしまったとしても、絶対に何とかしてくれる!
そう思うと、ほんの少しだけ緊張が解けた気がした。
そして、私たちはいよいよ王族の方々の前へ──。
「ようこそ、アオさん。今日は、王宮まで来てくださってありがとう」
頑張って練習したカーテシーを披露した後、頭を上げるように言われてそうすると、王妃様がにこやかに私に微笑みかけてくれていた。
うわぁ……すごく綺麗な人。
凛とした気品溢れるその姿は、まるで女神様のよう。女神の微笑みはどこまでも神々しく、ついまた頭を下げそうになってしまう。
「アオ、です。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「聞けば、クラフト職人の才があるとのこと。その力を、妃のために存分に発揮せよ」
「かしこまりました」
王からの言葉をいただき、私は今度こそ深く頭を下げる。そして再び顔を上げると、王太子と第二王子を紹介された。
二人の醸し出す雰囲気は違うけれど、どっちもイケメン。さすが王子様というキラキラ感がある。
「私は王太子、クリストファー・ランベール・アマルフィアだ」
「私は、第二王子のデューク。あなたの話はオスカーから聞いているよ。どんなアクセサリーを作ってくれるのか、とても楽しみだな」
クリストファー殿下は、どちらかというとオスカーに似ている。寡黙で、威厳があって、近寄り難い。
でも、デューク殿下の方は真逆と言っていい。優しそうな雰囲気で、私みたいな身分の者にも屈託のない笑顔を見せてくれる。
クリストファー殿下は父親似、デューク殿下は母親似、かな。
それにしても、私の話を聞いてるって、オスカーとデューク殿下はプライベートで交流があるんだろうか? 後で聞こう。
そんな風にいろいろ考えていると、緊張もかなり解けてきた。
「そして最後に。彼女が、もう一人の異世界からの召喚者、聖女、アリスだ」
王の言葉に、私は大きく目を見開いた。
王族から少し離れた席に、もう一人女性がいたのだ。
彼女のことはてっきり王女様だと思っていて、どうして王族の席にいないのかな、なんて思っていた。それくらい、場に馴染んでいたのだ。
私は、改めて彼女を見た。
輝くような金の髪、そして鮮やかな緑の瞳。その整った容姿に目を奪われる。美しいドレスを纏った姿は、この場にいて全く違和感がない。
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