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「聖女……様」
呆然としながら呟くと、聖女アリス様は、悠然と微笑んだ。
「あなたも私と同じ、異世界から召喚されたと聞きました。間違いで召喚され、大変お気の毒に思いますわ。どうかお力落としなさいませんように」
「いえ……」
なんて答えればいいのかわからず、曖昧にお茶を濁してしまう。
間違いなのに元の世界には戻れない私を気遣っての言葉だと思うけれど、なんとなく素直に入ってこなかった。
私は、本物の聖女である彼女が羨ましいんだろうか。だから、素直に受け取れない?
自分がよくわからなくて、小さく首を振る。
でもその後すぐに、王家の従者から私が今日作るアクセサリーについての説明が始まった。
私は慌てて気持ちを切り替え、話に集中する。
私が作るのは、王妃様の普段使いのイヤリング。宝石も装飾用の金属も用意されていた。
宝石はトパーズ。装飾には純銀。
普段使いとはいえ、さすがは王族、物は一級品だ。見惚れるほどの品に、私の胸はドキドキと高鳴った。
「このドレスに合うようなイヤリングを作ってもらいたいの」
王妃様の声にそちらを見ると、トルソーに飾られた、明るく爽やかな黄色のドレスが目に入る。
黄色のドレスというと、子どもっぽいものを想像してしまうけれど、トルソーのドレスは全然違っていた。
鮮やかな黄色でも、品がある。けばけばしくなくて、本当に上品。レースもふんだんに使われていて華やか。そして、デザインは大人っぽい雰囲気のプリンセスライン。
黄色のドレスに合わせて、宝石も黄色のトパーズなんだ。
私は頭の中で、幾通りものイヤリングのデザインを思い描いていく。時折王妃様を見て、イメージを固めていく。
「力の付与は、防御をメインにしてほしい」
「かしこまりました」
王からのリクエストに、私は大きく頷く。
護衛は常についているだろうけど、王妃様の身を守るのに一役買えるように、防御の力をってことなんだろうな。
王様は厳格そうに見えるけれど、王妃様には時々優しく微笑みかけている。きっと仲のいいご夫婦なんだな。
防御をメイン、そして、魅力と癒しも付与しよう。
魅力なんて、王妃様自身の持っているもので十分だけれど、アクセサリーは女性の魅力を引き立たせるものだからここは譲れない。それに、きっと公務で忙しいだろうから、癒しも必要だろう。
私は付与の種類と割合を大まかに決め、デザインを頭の中で確定させていく。身に付ける本人が目の前にいるのはありがたかった。
「製作を始めます」
私は皆に向かって声をかけ、装飾となる銀を手に取る。
皆が固唾を呑んで見守る中、私はイヤリングの製作に取りかかった。
イヤリングの装飾デザインを頭に思い浮かべながら、そっと銀に触れる。すると、それはたちまち姿を変えていく。
感嘆する声が辺りに響く。でもその声は、ほとんど私の耳には入らなかった。
製作する前までは、周りの人の反応に左右されてしまうのではないかと心配だったけれど、それは杞憂だったようだ。私は、自分でも驚くほどの集中力を発揮していた。
装飾が終わると、今度は宝石。
与えられたトパーズは、ティアドロップの形をしている。その周りを囲うように、先ほど作った純銀で装飾していった。そして最後に、留め具をつける。その作業と並行して、私は防御と魅力、癒しの力も付与していった。
「……できました」
一気に作り上げたのは初めてで、思った以上に体力も精神力も消耗した。
でも、ここで倒れるわけにはいかない。
私は気力を振り絞り、皆の前に完成したイヤリングを差し出した。
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