639人が本棚に入れています
本棚に追加
「アオ、今日は急で認定証は用意できないが、後日ジュール家に送ろう」
王様の言葉に、私はハッと我に返り、目を見開く。
「え……あ、はい! ありがとうございます」
「本当は、年に二回開催される認定試験に合格しなければいけないのだけれど、この中で証明してみせたのだから試験は必要ないわ。特例で、今ここであなたをクラフト職人として認定します。おめでとう、アオさん」
反射的にお礼を言ったけれど、王妃様の言葉でようやく合点がいった。
私、クラフト職人になれちゃったんだ!
喜びが込み上げ、胸がいっぱいになる。
目指していたものに、こんなに早く辿り着けるなんて思ってもみなかった!
「あ……ありがとうございます!」
「これからもっと経験を積んで修行すれば、クラフトマイスターも夢じゃないと思うわ。目標を高く持って頑張りなさい」
「はいっ!」
クラフトマイスター。クラフト職人が目指す頂点。
私はそこを目指せるのだろうか。
クラフトマイスターになれば、もっと高い癒しも付与できる。そうすれば、ルイーゼはもっともっと外へ出かけられるようになるし、世界は広がるだろう。高い防御の力を付与できれば、今より危険を遠ざけることができる。魅力だって数値を上げれば、世の女性たちの心強い味方になる!
王都のあの場所で、私の店を開く。そうすれば──。
「あのっ……お礼が遅くなってしまいましたが、王都に用意してくださった家を拝見させていただきました。とても素敵で、本当に感謝しています。ありがとうございました!」
私がそう言うと、お二人は満足そうに頷く。
するとその時、後方から快活な声がした。
「こちらが勝手に召喚して、元の世界に帰せないなんてとんでもないことをしてしまったんだから、当然のことだよ。もっと広い家をとも思ったんだけど、オスカーが……」
「デューク殿下!」
デューク殿下の言葉を遮るように、オスカーが口を挟む。
やっぱりこの二人は仲良しのようだ。デューク殿下は楽しそうにクスクスと笑っている。
「はいはい。でも、気に入ってもらえてよかったよ。アオさんの王都での生活は僕に全て一任されているから、何か困ったことがあったら遠慮せずに言ってね」
「あの……はい。ありがとうございます」
言ってね、とか言われても、王子様に直接は言えないと思うのだけど。
それにしても、デューク殿下って親しみやすいな。ものすごい高貴で威厳のある人たちに囲まれている中で、唯一の癒しだ。
「アオさんは、いつ頃店を開かれるご予定ですの? 開店したら、ぜひお祝いに伺わせてくださいませ。私、楽しみですわ」
聖女アリス様が立ち上がり、こちらに向かってくるのが見えた。それと同時に、クリストファー殿下もこちらにやって来る。
え? 二人してこっちに来ちゃうの?
クリストファー殿下がアリス様の手を取った。
それを見て、私は気付く。
この二人、もしかして……。
そう思った私の勘は、見事当たっていた。
「一月後に、私とクリストファー殿下の婚約のお披露目がありますの。ぜひ、アオさんにも出席していただきたいわ。ねぇ殿下、よろしいでしょう?」
「あぁ、構わない。ジュール公爵家の分と一緒に、君のものも送っておこう」
「……はい。ぜひ出席させていただきたく存じます」
チラッとオスカーに目配せすると、彼は頷いてみせる。なので、私は了承の意を伝えた。
伝えたのはいいけれど……婚約? 王太子と聖女アリス様が? まだ出会って間もないような気がするけれど。一瞬で恋に落ちたとか、そんな感じ?
その割に、クリストファー殿下は淡々とした表情なのが気になるけど、顔に出ないだけなのかな?
なんだか次から次へと新しい展開が押し寄せてきて、頭は混乱しているけれど、なんとか無事に終わったようだ。
私は心からホッとして、へらりとだらしのない笑みを浮かべてしまったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!