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08.いろいろありましたが、いよいよオープンです。
あれから、私はとんでもなく忙しくなった。
王家からクラフト職人の認定証が送られてきて、ジュール家の皆さんがお祝いをしてくれた。
この認定証があるのとないのとでは全然違うらしく、店にこれが飾ってあると、富裕層の客にも恵まれ、経営が安定するのだそう。
手に職をつけることができた。そして、拠点となる家兼店もある。
そろそろ私もここを出て、一人立ちしなくてはいけない。
そう思って、私はジュール公爵、夫人、ルイーゼ、オスカー、全員が揃っている時を見計らい、そのことを伝えた。
夫妻はとても喜んでくれて、応援すると言ってくれた。ルイーゼは淋しそうに表情を翳らせながらも、背中を押してくれた。しかし──
「平民として暮らしていくには、まだ早い」
そう言ったのは、オスカーだった。
何が早いのかよくわからず何度も尋ねたけれど、オスカーは「世間知らずのアオが一人暮らしなんて危険すぎる」の一点張り。
王都は比較的治安がいいという話だし、その中でも特に安全な地区に住まわせてもらうことになっている。
平民としての生活は、ここでの生活とは全く違う。それはわかっていたので、私はサラや他のメイドさんたちにいろんなことを教えてもらっていた。
それに、私は元々一人暮らしをしていて、それなりに家事はできる。元の世界のような便利な家電はないから、こっちの世界の道具の使い方を教わって、実際にそこそこ使えるようにもなっている。
オスカーが余計な心配をしなくていいよう、準備はしてきたのだ。
「店をやることは賛成だ。ここから通えばいい」
それは、一人立ちとは言いません!
何度か言い合ったけれど、オスカーは何故かなかなか出て行くことを許してくれなかった。最終的には喧嘩のようになってしまい、間にルイーゼが入ってくれて事なきを得たけれど、私たちの間は少し険悪な雰囲気にもなっていて。
私ってそんなに信用ないのかな、頼りないのかな、と情けなくなってしまった。
オスカーには最初から随分助けてもらって、とても感謝している。それに、オスカーの言うことも100%間違いじゃない。心配性なのはどうしても否めないけれど。
だから、折衷案として、店をオープンさせるまではここからの通いにした。
オープンするまでにはいろいろ準備しなきゃいけない。アクセサリーもある程度の量は作っておく必要があるし。
二階の住居を整え、店のレイアウトを決めて道具を搬入し、オープンしてからも慌てないくらいのアクセサリーの在庫を作っておく。
この期間は、これまでどおりジュール家に居候させてもらった。それでも、オスカーは複雑な表情で私を見ていたけれど。
店をオープンする準備としては、二ヶ月くらいを予定していた。
毎日忙しい日々を過ごしていた私だけれど、その間に聖女アリス様とクリストファー殿下の婚約お披露目の招待もあった。
ジュール家には来て当然だけれど、私に対しては社交辞令だと思っていたので、本当に私宛にも来るとは思わず、驚いた。
「どうしよう! ドレスとかないし、マナーとかもわかんないし、ダンスとかも踊れないよ? それに、エスコートとかいるんでしょ? 誰もいないよ?」
慌てる私に、ルイーゼは得意げな顔でふふん、と笑った。そんな笑い方をしても、ルイーゼは途轍もなく可愛らしい。
「アオお姉様、そこは抜かりありませんわよ。「エーデル」で、すでに発注済みですわ。それに、マナーやダンスは付け焼刃にはなりますけど、私とお母様でお教えいたします。エスコートについても問題ありません。お兄様がいるじゃないですか!」
「オスカーは、警備にあたるんじゃないの?」
王宮騎士団は、その名のとおり、王族の住まう王宮を守る役割が主だ。王宮内で行われる催事などの安全も含まれる。だから、王家主催の夜会などの警備にあたるのも、王宮騎士団になる。
王太子と聖女の婚約お披露目なんて、他国の要人も多数来るだろうし、特に厳重な警備が必要なのでは?
そう思ったけれど、今回のお披露目の警備から、オスカーは外れているとのことだった。
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