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副団長なのに、大丈夫なの!?
聞けば、そういったものの警備には、必ずといっていいほどオスカーが入っていたこともあり、偶には外れろと団長さんから言われたらしい。
どうしていつも入ってたんだろう? パーティー好きなのかな?
ルイーゼにこっそり聞いてみると、笑われてしまった。
「まさか! その逆ですわ。お兄様が夜会に出席すると、たちまちご令嬢たちに囲まれてしまうのです。お兄様にはまだ婚約者はいませんし、見目も麗しいでしょう? おまけに、王宮騎士団の副団長で腕に覚えもあり、誠実なお人柄も周知されております。なので、お兄様に憧れるご令嬢が、それはそれは山のように」
「つまり、ご令嬢に囲まれるのが嫌で、夜会には出たくない。でも、公爵家嫡男としては出席する必要がある。それを回避するために、仕事という理由を作って……?」
「ご名答ですわ」
「だったら、早く婚約者を作ればいいんだよね? オスカーなら容姿も完璧、家柄も申し分なしで、よりどりみどりだと思うんだけど」
「私もそう思うのですが、お兄様は騎士団でのお仕事に熱中されていて、女性には見向きもされないんです。意中の方がいらっしゃるのかと思いきや、そうでもないようですし」
「そうなんだ」
「でも、最近はそうでもなさそうですけど」
「意中の人ができた?」
「……気付いていらっしゃらないのですか? アオお姉様」
「え? 私の知ってる人なの!?」
目をパチパチさせながらそう言うと、ルイーゼはおかしくてたまらないといったように肩を震わせた。で、教えてと迫る私に、最後までその相手のことを教えてくれなかった。……ルイーゼが珍しく意地悪だ。
「とにかく! アオお姉様のエスコートは、お兄様で決まりなのです」
「それじゃあ、ルイーゼは?」
「私は、いとこのクラウスにお願いしますわ。お兄様が夜会に出席されない場合、いつも彼にお願いしているのです」
「そうなんだ……」
ルイーゼは今十七歳で、公爵令嬢なら婚約者がいてもおかしくない。むしろ、いない方が不思議なくらいだ。
その理由は、たった一つ。ルイーゼが病弱だから。
ルイーゼを他家にお嫁に出すのが心配であり、また他の貴族も、ルイーゼを貰い受けて、万が一何かあれば公爵家を敵に回してしまうかもしれないという恐怖で、どこも申し出ないのだという。ジュール公爵家の一人娘への溺愛ぶりは、あまりにも有名なのだ。
公爵家令嬢との婚姻は、とんでもなく魅力的。それに、ルイーゼは美しく、頭もよく、貞淑。結婚相手として申し分がない。本来なら喉から手が出るほどの優良物件であるにもかかわらず、「病弱」ということが足枷になっている。
それをサラから聞いた時、私は何とかしてルイーゼを元気な身体にできないものかと思った。
私は医者じゃない。でも、癒しの力を授けることができる。それをどんどん磨いて数値を上げていけば、ルイーゼを健康体にできるかもしれない。
そう思った瞬間から、私は様々な力の中でも、特に癒しの力の数値を上げることに注力してきた。
クラフト職人としてもっともっと経験を積み、クラフトマイスターになれたら──。
そんなことを考えていると、ルイーゼは立ち上がり、私の手を取った。
天使の微笑みを浮かべながら。
「アオお姉様、それでは早速今日から、マナーのレッスンを始めましょうね!」
「……はい」
嬉々としてはりきるルイーゼの目が、ちょっと怖かった。
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