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そして、ほんとのほんとに付け焼刃状態で、私は聖女アリス様とクリストファー殿下の婚約披露の夜会に出席した。
慣れないドレスに靴、そして作法と、とにかく大わらわというか必死。
エスコートがオスカーなものだから、ヘマしちゃいけないと、緊張でガチガチになっていた。
「もう少し気楽にいけ」
「気楽、なにそれ。わかんない」
涙目になりつつある私をフォローしながらも、オスカーは余裕綽々。まぁ、当然だけれど。
夜会にはあまり出席しないとはいえ、公爵家の令息だからお手のものだ。
そして、私は社交界でのオスカーの立ち位置を、嫌というほど思い知らされた。
「オスカー様がご出席されてるわ。……相変わらず素敵ね!」
「エスコートされている方はどなた?」
「ほら、あの異世界から召喚された、間違いの……」
「あぁ、あの方ね」
「間違いでお気の毒とはいえ、オスカー様にエスコートされるなんて、なんて羨ましいのでしょう!」
ご、ごめんなさいっ!
ひそひそ話とはいえ、お嬢様方の声は耳に入ってくるんですよ、えぇ。
皆、オスカーにエスコートされたいんですよね。そうですよね。えぇ、えぇ、わかりますとも。だって、めちゃくちゃ美丈夫だもんね!
私がこの世界にやって来て初めて目にした人は、フィルさんだった。とんでもない美形だった。
そして、オスカー。めちゃくちゃ男前だった。ジュール家の皆さんもことごとく美形揃い。目の保養。
それから、王族の方々。王様は凛々しく、王妃様は美しく、王太子クリストファー殿下も凛とした美形だし、第二王子のデューク様も優しい雰囲気の端正なお顔立ちで。
この世界には美形しかいないのかと思いきや、こうして多くの人が集まる社交界に出てみて、初めて気付いた。
──私がこれまで関わった人たちの顔面偏差値が異常だったんだ!
オスカーはひっきりなしにいろんな人から話しかけられ、その度に私までビクビクしていたのだけれど、オスカーはできる限り私の側から離れないでいてくれた。
一人では心細いだろうという気遣いがありがたい。さすがオスカー。顔だけ見ればちょっと怖いけど、中身は優しい。
主役の二人は、とにかく輝くばかりの美しさ。アリス様なんて、まるで宝石のようにキラキラしている。
私は平々凡々な日本の会社員だったけれど、アリス様のあの様子からすると、元の世界でも貴族だったんだろうなと思った。
立ち居振る舞いも堂々としているし、場の溶け込み方が自然だ。
こうして見てみると、アリス様が聖女というのも頷ける。というか、そもそも私、どうして間違って召喚されちゃったんだろう?
フィルさんは、この世界でたった一人の最上位魔法師だというのに。誰もがその力を認め、王さえも一目置いているというのに。
煌びやかな社交界。
まさに物語の中に入り込んでしまったかのような空間。
綺麗で美しいけれど、そう何度も参加したいものではないな、と思った。
だって、どうしたって浮いちゃうからね!
と、そんなこんなで、私は初の夜会を終えたのだった。
それからは、とにかく暇があればアクセサリー作りに没頭し、開店の準備に明け暮れ、そしてようやく……!
私の店、アクセサリー工房「リトス」が開店したのだった。
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