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09.騎士団長と公爵令嬢の密談(Side:Others)
「おぉ、ルイーゼ嬢、久しぶりだな。元気そうでなによりだ」
「アレックス様、ようこそいらっしゃいました。アオお姉様に作っていただいたネックレスのおかげなのです」
ルイーゼは、アオが作ったアメシストのネックレスをアレックスに見せる。
ルイーゼはそれを身に着けるようになり、以前と比べてかなり動けるようになっていた。顔色もいい。とはいえ、寝込まなくなったという程度で、普通の人よりは疲れやすく、活動に制限はあるのだが。
いつもは騎士団内の執務室で行うアオについての報告だが、今日はルイーゼがアレックスに話があると言って、彼にジュール公爵家まで出向いてもらっていた。
オスカーは報告を終えると、すぐに騎士団へと戻っていく。その後ろ姿を眺めながら、アレックスは苦笑した。
「ルイーゼ嬢の兄上は、責任感の権化だな」
「そこがお兄様の良いところであり、困ったところでもありますわ」
「おや、ルイーゼ嬢を困らせているのか?」
「困るというよりは……もどかしいというか、そんな感じですわ」
「もどかしい?」
アレックスは、侍女のマリンの淹れたハーブティーを口にしながら、はて、と首を傾げる。
ルイーゼは、ここで間髪入れずにアオがジュール公爵家から一人立ちする際の出来事を話し始めた。
ジュール家の者は、もれなくアオの味方であり、クラフト職人として頑張っていこうというアオの意思を尊重し、応援している。それはオスカーだって同じのはず。しかし、彼は最後の最後までアオの一人立ちを渋ったのだった。
公爵家で何不自由なく生活してきた身で、王都で一人暮らしをするのは大変だ。王都がいくら治安がいいといっても、事件が起こらない保証はない、危険だ。などなど。
「彼女は庇護対象ではあるが、あまりに過保護ではないか?」
「あら、アレックス様でもその理由がおわかりになりませんか?」
「珍しく手厳しい」
若干不満げな顔をするルイーゼを見て、アレックスは益々わからないといった顔になる。
先ほど言ったとおり、オスカーは責任感の権化のような男だ。異世界から間違いで召喚されてしまい、行き場のなくなってしまったアオの身を案じて、自ら保護を申し出た。
その言葉どおり、彼はここで彼女を大切に守ってきたのだろう。彼だけではない、ジュール公爵家全員で彼女を庇護してきたのだ。
だがそれは、アオがこの世界に慣れるまで。一人で生活できる基盤ができるまでの話。
アオはこちらの世界に来て、新たな能力を開花させた。
道具は使わずに手指だけで鉱物などを自分の脳内で創造した形に変化させたり、アクセサリー作りに必要な材料を加工したりする能力、そして創造物に攻撃や防御、魅力や癒しといった特別な力を付与する能力。
後者はクラフト職人と呼ばれる技術者なら誰でも保持している能力だが、前者についてはアオだけが持っている能力だった。それらの力は正真正銘本物で、王族の目の前で披露され、彼らに認められたものだ。
彼女はクラフト職人の称号を見事勝ち取り、王都で店を開くことになった。生活の基盤が整ったのだ。
「アオお姉様は、侍女やメイドたちに様々な道具の使い方を習い、掃除や洗濯、料理のやり方を教わっていました」
「ほぉ、一人立ちする準備は万全というわけだな」
「はい。お姉様はいつまでも我が家にいることについて、心苦しく感じておられたのですわ」
「なかなかしっかり者だな」
「はい。アオお姉様は本当に謙虚で控えめで、それは素晴らしい美点なのですけれど、私たちはずっとここにいてほしい……とも思っておりました」
ルイーゼは目を伏せ、肩を落とす。
彼女はアオを本当の姉のように慕っていたというから、ここを出て行ってしまったことが寂しくてならないのだろう。
だが、アオがここにいることで感じる引け目も理解していた。だからこそ、アオを笑顔で送り出したのだ。寂しい気持ちを懸命に押し隠して。
ルイーゼは顔を上げ、僅かに身を乗り出すように言った。
「でも、私は必死に我慢いたしましたわ! 寂しいけれど、お姉様の華々しい旅立ちなのですもの。笑顔で送り出してさしあげなくてはいけないと、本当に懸命でしたの!」
「あ……あぁ、そうだろうな」
アレックスは、ルイーゼの迫力に若干身を引く。
家族内ではどうか知らないが、少なくとも外に見せているのは淑女然とした完璧な姿で、こんな彼女は見たことがなかった。
ルイーゼはハッとしたような顔をしたが、開き直ったように話を続ける。
「なのに、お兄様はあれこれ理由を並べて、アオお姉様を引き留めたのです。一度や二度じゃございません。それがあまりにも度を越しており、一時は二人ともぎくしゃくしていたほどですわ」
「それは……オスカーらしいというか、いや、らしくないの、か?」
「どちらとも言えますわね。お兄様は過保護なところがございますので、らしいと言えばそうでしょう。でも、アオお姉様の件につきましては、過保護なだけじゃありませんわ」
「ほぉ、それは?」
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