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10.王都での生活
「アオー! この間修理してもらったネックレスなんだけど、疲れが取れるの! すごいわ!」
私が王都で開いた店「リトス」に飛び込んできたのは、ここに来てから仲良くなった平民の少女、アメリーだ。
彼女はこのすぐ近くに住んでいて、私がこの家に行き来するようになってから、ちょくちょくこちらの様子を窺っていた。
店がオープンしてからも、気になるようで窓から中を覗いていた。でも入ってこない。そこで私は、思い切って彼女に声をかけてみたのだ。
「今日からオープンしたの。ぜひ見ていって」
「あ、えっと、あのっ! 私、平民だし、裕福じゃないしっ」
「見ていくだけでもどう? 外からじゃあまり見えないでしょう?」
「でも、買えないし……」
「それでもいいの。どうぞ」
店はオープンしたけれど、最初の頃は閑古鳥が鳴いていた。
アクセサリーの店はこの辺りにも数軒あるけれど、どこも高級志向だ。
王都には貴族たちも大勢いるから、彼らを相手に商売する方が儲かるし、単純にアクセサリーを必要とするのは圧倒的に貴族、ということも理由の一つ。
でも私は、「リトス」をそういう店にしたくなかった。
もちろん、貴族の人にも来てもらいたいけれど、一番は平民の人たち。
彼らだってアクセサリーを身に付けたいだろう。女性は特にだ。貴族とか平民とか身分に関係なく、おしゃれはしたいはず。
だからこの店は、平民の人たちにも手が届くアクセサリーを、というのをコンセプトにした。
「えぇっ!? く、クラフト職人の認定証! え? 無理無理! 私、絶対買えませんっ」
店には、クラフト職人の認定証を飾ってある。一応、資格だしね。
でも、後からアメリーに教えてもらったのだけど、この認定証がある店のアクセサリーは、とても平民には手の届かないもので、店に入ることさえおこがましい、らしい。
確かに、クラフト職人は様々な力を付与できるから、自動的に値は上がる。宝石も高価なものを使っているし。
「あぁ、大丈夫よ。ガラスケースに入っているものはそれなりに高価なんだけど、そのまま並べてあるものは普段使いできるものだから」
貴族の客も逃したくないけれど、メインは平民相手にしたい。
だから、平民の人たちにも手が届く値段設定のアクセサリーは、カウンターなどに色とりどりの布を敷いてその上に直接置いたり、ガラスの皿に入れたりと、レイアウトは多少工夫してだけれど、誰でも手に取れるように配置した。
そして、貴族が手に取るような高価なものはガラスケースの中に。これは盗難防止も兼ねてだ。鍵もかかっている。
「そこに値段があるでしょう? 手が届く設定にはしてるつもりなんだけど……」
ガラスケースのアクセサリーには値札なんてつけない。
でも、そのまま置いてあるアクセサリーにはそれぞれ値札をつけていた。
だって、値段のわからないものなんて手に取りづらい。それに、値段なんて聞きづらい。
開店前に同業の店をいろいろ見て回ったけれど、値札をつけている店はなかった。まぁ、高級なものしか扱ってないからだけど。
洋品店とか、肉屋、魚屋、果物屋、花屋、雑貨店などなど、そういった店にはちゃんとついているのに。
「うわぁ……素敵! こんなに素敵なのに、この値段で大丈夫ですか? これなら私にも買えそう!」
アメリーが、瞳をキラキラさせながら笑った。
値段設定が適正みたいで、私はホッと胸を撫で下ろした。
平民の人たち向けのアクセサリー店なんてなかったから、値段をつけるのに相当頭を悩ませたのだ。
彼らの平均的な収入、生活にかかる費用、娯楽などに割けるお金、そういったものをジュール家のメイドたちに聞きまくって、それで設定した。
サラにも聞いてみたけれど、侍女というのは下位貴族の令嬢が行儀見習いを兼ねて勤めていることが多く、参考になるかわからないと言われた。
そうだったんだ! 全然知らなかった!
仕事の内容に違いがあるのは知っていたけれど、そういったことまでは知らなかった。
つまり、サラは貴族令嬢だったのだ!
サラは、子爵家の令嬢らしい。実家はあまり裕福ではないそうだけど、古くから続く由緒ある家系なのだそう。
ジュール家で働く人間は、身元のしっかりした人ばかりだという。それはそうだろう、ジュール家は、王家とも近しい公爵家なのだから。
そんなこんなで、最初は中に入ることさえ躊躇していたアメリーだけれど、これをきっかけに毎日のように来てくれるようになった。
アメリーは来る度に王都でのことをいろいろ教えてくれたり、時には食べ物も持ってきてくれた。アメリーは料理好きらしく、作りすぎたと言っては美味しいものを分けてくれる。
また、アメリーがしょっちゅう顔を出してくれるおかげで、他の人たちも来てくれるようになった。
そして口コミがどんどん広がり、「リトス」は、入れ代わり立ち代わり人で賑わう店になった。
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