10.王都での生活

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「カイル! 本当?」 「宝石加工の時にどうしても屑が出るし、そんなのでよければタダでやるけど」 「珍しく気前がいいわね、カイル!」 「一言よけいだ、アメリー」  カイルもこの店の近くに住んでいて、彼は宝石加工の職人さんだ。そして、クラフト職人でもある。  カイルもクラフトマイスターを目指していて、どちらが先になれるか競争している。  今はこうしていいライバルになっているけれど、ここへ来たばかりの頃、私はカイルに嫌われていた。 「どうせお遊びなんだろう?」  私が異世界から召喚されたことや、王族から直接クラフト職人に認定されたことも知っていて、ジュール公爵家でお世話になっていたこともまたしかり。  何かと幸運に恵まれ、トントン拍子に王都に店まで持ってしまった私に、カイルはいい感情を持っていなかった。  気持ちはわかるけれど、これは私にはどうにもできないことだ。  負の感情を払拭するには、言葉よりも仕事ぶりだと思ったので、私は彼とあえて関わりを持つようにした。  すでにオスカーやジュール公爵から宝石の仕入れについて店を紹介してもらっていたのだけれど、そこにカイルの店も加えた。  もちろん、カイルの腕を見るために店にも足を運んだ。  カイルの加工する宝石は、ダイナミックで迫力があった。繊細な美しさとはまた違った美しさがあった。私はそこに惹かれ、仕入れすることを決めたのだ。それに、カイルは私が不得意な、攻撃の力の付与に長けていた。  取引先となった「リトス」に、カイルはちょくちょく足を運ぶようになり、私の仕事ぶりを見てもらったり、いろんな話をしたり、そうこうしているうちに少しずつ認めてもらえるようになった。  最初はツンツンとした態度だったカイルだけれど、実際は気のいい優しい人だった。たぶん、内に入れた人間には甘いんだと思う。  元の世界にいた私なら、きっとカイルのことは避けていたと思う。嫌われている相手にわざわざ近づくなんて怖い。  でも、ここに来てからいろいろ吹っ切れた感もあって、あえてやってみようと思ったのだ。  突然訳のわからない状況に追いやられ、無理やり受け入れざるをえなくなり、たくさんの人に助けられながらだけどそれに対処してきたことが、ちょっとだけ自信に繋がっているのかもしれない。  あと、カイルと関わっていこうと思ったのには、もう一つ理由があった。  アメリーとカイルは、幼馴染だったのだ。  カイルの態度に落ち込む私を、アメリーはいつも励ましてくれて、そしてカイルを諫めてくれた。間に立って取り持ってくれたのだ。  アメリーには、本当に何から何までお世話になりっぱなしで頭が上がらない。だから、内緒でこっそり力を付与することなんてなんでもない。日頃のお礼のようなものだ。 「どれくらいの大きさがあればいいんだ?」  カイルに尋ねられ、私はうーんと考え込む。  大きさはいらないけれど、薄すぎたりするものは厳しいかな。ハンカチに縫い付けられるくらいの強度はほしい。  そんな希望を告げると、カイルはわかったと言って、すぐさま店を出て行った。早速持ってきてくれるらしい。 「屑とはいえ、宝石なんだからタダはダメだよね」 「でも、カイルがタダでいいって言ってるんだし、貰っちゃえば?」 「うーん……」  屑石だって、集めて加工すれば宝石になる。もちろんそれは人工物として価値は下がってしまうけれど。それでもお金にはなるんだし、タダで貰うのは申し訳ない気がする。  そんなことを考えているうちに、カイルが屑石を持って「リトス」に戻ってきた。 「とりあえず、その辺にあったのを集めてきた」  カイルは袋に詰めた屑石を見せてくれる。そこには色とりどりの石が入っていた。 「わぁ! ちゃんと見てみたいから、工房の方へ持ってっていい?」 「いいぜ。どうせやるんだし」 「それはダメだよ! 私用ならともかく、売り物に使うんだから、ちゃんとお金は払います!」 「ったく。こっちがやるって言ってんのに」 「ふふ。アオはそういうところ、真面目よね」  私はサラに声をかけ、店番をお願いする。  そうそう、サラは今、私と一緒に暮らしてくれているのだ。  サラを連れていくことが王都で一人暮らしをする条件とオスカーから言われ、私はサラの了承を得てついてきてもらった。  サラと一緒だと一人暮らしにならないんだけど、とつっこんではみたのだけれど、すぐさまオスカーに却下された。  そんなに私って頼りないのだろうか。オスカーが過保護すぎるのだろうか。……たぶん、どっちもだな。  サラにしてみればとんだとばっちりだと思うのだけど、優しいサラは笑顔で受け入れ、ジュール家から引き続き私の世話をしてくれている。  主に日常生活に関してお願いしているのだけれど、私一人でお客を捌ききれない時などは、サラにも店を手伝ってもらっていた。有能なサラは、初めてだというのに難なくこなしてしまうのでびっくりだ。
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