02.ジュール公爵家

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 その後すぐ、ジュール家の人たちとの対面が叶った。  ジュール公爵家の当主、つまりオスカー様の父親であるアイザック様、母親のエレナ様、そして妹君のルイーゼ様、彼らは皆眩いばかりの美しさで、目が潰れるかと思った。  見るも艶やかな美形家族。両親がこれなら息子や娘はこうなるよな、という感じ。  皆さんはとても温かく私を迎えてくれ、本当にありがたかった。 「アオさん、どうぞゆっくりと過ごしてね。ずっとここにいてもいいのよ。もう一人娘ができたみたいで嬉しいわ」 「エレナ、アオさんを困らせてはいけないよ。だが、その気持ちはわかるぞ。そうだアオさん、うちの養女になるかい?」 「それがいいわ、お父様! 私、お姉様がほしかったの!」  突然やって来た私に対し、この歓迎ぶり。社交辞令かと思いきや、その表情や目を見ると、とても嘘とは思えなくて、本気でびびってしまった。 「いきなりグイグイいくな。アオが引いているぞ」  オスカー様が助け船を出してくれてホッとしたのも束の間、ルイーゼ様は私の手を握り、上目遣いで言う。 「アオ様、私のお姉様になるのはお嫌ですか?」 「……いえいえいえっ! そんな、滅相もないっ!」  嫌だなんて言えるはずがない。  こんな超・超・超美少女を目の前に、そんなことを言える人間がいるならぜひ会ってみたい。そして非難してやりたい。  可愛いは正義。美しいも正義。よって、ルイーゼ様は正義の中の正義なのだ。  とても愛らしいルイーゼ様だけれど、実は身体が弱く、少しでも疲れが溜まるとすぐに床に伏せってしまうのだそう。  病弱な美少女……絵になりすぎるんですけど。  でも、ルイーゼ様はとても明るく前向きで、つい応援したくなってしまう。私にも何かできることがあればいいのに、と思わずにはいられない。  ジュール家の皆さんの距離の近さには驚いたけれど、後から聞いた話によると、私は突然異世界に連れて来られた迷子、大切にしなくては! という使命感に燃えていたかららしい。と同時に、私を一目見た瞬間から気に入ってしまったのだそうで。  どうしてかはわからないけれど、嫌われるよりずっといい。だって、私もジュール家の人たちが一目で好きになってしまったから。  それから、皆さんと顔合わせをした後は、オスカー様がこの世界についていろいろ教えてくれた。  ここはアマルフィア王国。古い歴史を持ち、最上位魔法師を要する強国。  最上位魔法師は、実はどこの国にもいるわけではなくて、近隣諸国の中ではアマルフィアにしかいない。  なるほど、それじゃフィルさんは、ある意味王様よりも立場が強いわけだ。  そして、この国は神と精霊の加護を受けており、そのおかげで平和と豊かさがもたらされている。でもそれは永久的なものではなく、危機が訪れることもあり、その時には闇雨(やみさめ)が降ると言われている。 「闇雨って、普通に雨が降る感じ……なんですか?」 「今さら敬語で話さなくてもいい」 「……はい」  最初に会った時は、私は右も左もわからず、また大混乱していたこともあり、敬語も何もなかった。  でも、今はいろいろ知って、オスカー様がかなり身分の高い人だってことがわかっているから、無理やり敬語にしてみたのだけど。  今さらというなら、構うまい。本人がいいと言っているのだから、そのまま話そう。  私の疑問にオスカー様は答えてくれた。 「普通の雨ではない。天から落ちてくる水が、黒く濁っていた。衣服や身体につくと汚れてしまう。植物も次第に枯れていき、本当に危険な状態だった」 「黒い雨……」  それはまさしく国の危機。  そして、その闇雨をやませることができる唯一の存在が「聖女」なのだそうだ。  ただ困ったことに、聖女は自国には存在しない。闇雨をやませることができる聖女は、異世界から召喚するしかないのだという。そして、異世界から聖女である人間を召喚できるのは、最上位魔法師だけ。  あの日、私はこの国に降り続けていた闇雨をやませるため、フィルさんによって異世界から召喚された。  私がいた場所は聖堂で、そこはいわば教会のようなところ。神官が神に祈りを捧げる場所で、聖女召喚もあそこで行われるのが習わしなのだそうだ。  といえど、異世界からの聖女召喚なんて、そんなしょっちゅう行われるはずもなく、皆半信半疑だったようだ。歴史書によると、以前に聖女召喚が行われたのは百年以上前だというのだから、それはそうだろう。  でも、何もない場所からいきなり私が現れ、闇雨はあがった。  しかしここで問題が起こる。──そう、判定石が反応しなかったのだ。
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